広域地盤への適用が可能な傾斜地水田の防災管理マップ

要約

中山間地・傾斜地水田における表層崩壊を対象として、浅層部の浸透シミュレーションを行って求めた動水勾配から浸透水流入・流出指標を評価してマップ化することにより、畦畔除草・災害監視の必要性や畦塗・代掻の有効性を可視化して防災管理に役立てられる。

  • キーワード:傾斜地水田、農地災害、浅層浸透解析、防災管理、ハザードマップ
  • 担当:農地防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7670
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

中山間地・傾斜地水田では浅層浸透による地盤災害が生じているが、斜面災害発生の機構は十分には明らかにされていない。近年では、乾燥型耕作放棄地と湿潤型耕作放棄地における土砂崩壊防止機能の違いについても注目されているが、定量的な評価手法は確立していない。そこで、数値地形・地盤モデルを構築して浅層部の浸透シミュレーションを行って浸透水の流入・流出指標を定量評価してマップ化し、傾斜地水田の防災管理に役立てる手法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 中山間地・傾斜地水田において地形・地盤条件を考慮した数値地形・地盤モデルを構築した。浅層部の浸透シミュレーションを実施し、地表面近傍の浸透水流動を予測した結果から表1のとおりに浸透水の流入・流出の程度を表す指標を定義できる。流速の最大値を基準とする従来の指標は透水係数が異なる地盤での信頼性に疑問があるため、動水勾配に基づいた定義式を提案する。これにより、透水係数が異なる広域でも客観性のある指標の定義が可能になる。
  • 現地で浅層地下水位を実測した結果、浸透水流出指標が大きくなる地点では地下水位が高く、浸透水流入指標が大きくなる地点では地下水位は低かった。また、流入域・流出域が交錯する地点で地下水位が変動していた(図1)。この結果から、提案する動水勾配を用いて評価した指標は現地の浸透水流動状態を適切に説明できることが明らかになった。
  • 浸透水流入指標が大きくなる地点(乾燥型農地)は耕作放棄により地すべり等斜面災害発生リスクが大きくなり、浸透水流入指標が大きくなる地点(湿潤型農地)は耕作放棄されても地すべり等斜面災害発生リスクは変化しないと判断できる。
  • 浸透水流入指標と流出指標を用いて、地域の防災管理マップ(図2)を作成できる。浸透水流入指標が大きくなる領域は下降浸透が卓越するために排水が進みやすく、乾燥型農地と判定される。この領域では畔塗・代掻等の農地管理により防災機能の向上を見込むことができるのでこれらの管理労力を重点的に投入すべきと判断できる。浸透水流出指標が大きくなる領域は上昇浸透が卓越するために集水されやすく、湿潤型農地と判定される。この領域では畦畔除草等により農地変状の監視に重点を置くべきと判断できる。

成果の活用面・留意点

  • 中山間地・傾斜地を有する県の農地管理担当者が水田の防災管理について検討する際に使用できる。
  • データとして必要な透水係数は、現地採取試料の実測値を用いているが、一般に公開されている表層地質データから推定することも可能である。

具体的データ

表1 数値指標評価式
図1 浅層浸透水の 実測結果
図2 提案する指標に基づく傾斜地水田の 防災管理マップ

(川本治)

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:川本 治、吉迫 宏、井上敬資、正田大輔
  • 発表論文等:1)川本ら(2010)農業農村工学会誌、78(9):751-754