東日本大震災の津波による水門と排水機場の被災の特徴

要約

東日本大震災の津波による水門の被害は小型水門のスピンドル式開閉装置のスルースゲートに多く、ラック式開閉装置には少なかった。排水機場の被害は建屋が木造またはパネル構造で海岸近くに位置するものに多かった。

  • キーワード:東日本大震災、津波、水門、排水機場、復旧
  • 担当:農村防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7567
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東日本大震災による津波で沿岸の防潮水門、海岸堤防付設の水門、排水機場は大きな被害を受けた。特に、排水機場は被災すると堤防の決壊による海水の流入により湛水地域を形成し、遺体捜索を妨げ、多数の緊急ポンプが投入されたが、4月上旬まで湛水が残った地区も多い。この教訓から、津波にあっても復旧しやすい粘り強い水門と排水機場の設計が課題である。ここでは、被災実態の現地調査から水門と排水機場の津波に対する弱点を明らかにし、今後予想される東海・東南海地震に対する津波対策の一助とすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 調査水門点は90箇所で、宮城、岩手県と福島県北部を含む。調査排水機場は宮城県の仙台湾沿岸の河南矢本、名取(図1)、亘理地区の26機場である。
  • 水門は大型で幅が20m以上の防潮水門(図2の大、31箇所)と幅が5m未満の小型の排水水門(図2の小、59箇所)に大別できる。大型水門には電動モーターで作動するゲート扉の開閉機が付帯する。また、ゲート高が大きいため管理用の階段が付帯している。大型水門では、この開閉機と階段は100%が損傷しているので、これは、図2では被災に区分しない。大型水門のゲート扉は強度が高く、被災は流出が2箇所、軸の傾きが2箇所で、これが図2の被災である。小型スルース水門の開閉装置には写真1のスピンドル式開閉装置とラック式開閉装置がある。図2のようにラック式開閉装置はゲートの開閉ができなくなる被災が少なく、今後整備する小型スルースゲートにはラック式開閉装置が推奨できる。
  • 排水機場の被災は、津波外力、津波抗力を決める建屋の種類(鉄筋コンクリート造:マーク無し、パネル構造、木造)によって異なる。ここでパネル構造とは、鉄骨の支持枠にスレート等のパネルを張ったものである。図3に、排水機場の被災を、建屋の全壊または半壊(レベル1)、窓が壊れてガレキが建屋内部に侵入する(レベル2)、浸水のみ(レベル3)に区分した。被災は、津波抗力が小さい木造またはパネル構造で、津波外力が大きい内陸位置以外の海岸近くが多い。図3で回復困難に区分した排水機場は全て内陸位置以外で海岸近くに位置する。一方、建屋や内部の構造物に力学的な破壊がなくとも塩水が電気機器に数cm湛水するだけで、電気系統は利用不能になる。これからポンプの台座と配電盤の胴の高さを数10cm上げただけでもそれなりの防災効果が期待できる。
  • 排水機場の8月末の回復状況(3:全ポンプ復旧、2:一部ポンプ復旧、1:復旧なし)と当初の被災のレベルを図3に示す。これらから、建屋の強度や堤防を強化して回復困難になるレベル1の被災を回避することが最重要である。

成果の活用面・留意点

  • 今後の解析では、津波外力が推定できないことが分析の障害になったので、図4のような津波外力の調査方法が緊急調査マニュアルとしてまとめられれば有益である。
  • 今回の水門、排水機場の調査では、外力と抗力が十分に分離できていない点に留意する。
  • 今回の被災調査は東北地域を対象としているため、東海・東南海地震津波対策に利用する場合には、地形条件などの違いに配慮する必要がある。

具体的データ

図1 名取地区のポンプ場配置写真1 スルースゲートの開閉装置

図2 水門の種類別調査施設数(棒グラフ)と 被災率(折れ線)

(丹治 肇)

その他

  • 中課題名: 高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:丹治 肇、桐 博英
  • 発表論文等:1)Tanji and Kiri (2011) PAWEES2011、Taiwan
    2)丹治ら(2012)農工研技報、213:255-268
    3)丹治、桐(2011)水文水資源学会研究発表会講演要旨