沿岸部の農地を利用した津波の遡上抑制効果

要約

東北地方太平洋沖地震で発生したクラスの巨大津波の被害を軽減するため、背後農地を津波減勢のバッファーとした場合の津波遡上抑制効果を水理模型実験で評価した。本実験条件下では、農地を活用することで津波遡上をおよそ2分遅延させる。

  • キーワード:東日本大震災、津波、減災技術、水理模型実験
  • 担当:農村防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7567
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東北地方太平洋沖地震に伴って発生したレベルの巨大津波に対しては、従来の海岸堤防による防災だけでなく、背後地への浸水を許容しつつも保護すべき地域を確実に防御する減災技術が現実的である。このため、農地海岸において、背後の農地を津波や高潮に伴う氾濫のバッファーとし、農道等を内陸堤として活用することで減災効果を得ることが期待されている。東日本大震災後の地域復興計画の策定に活用するために、農道等を内陸堤として活用することによる津波の遡上抑制効果を明らかにする。ここでは、室内水理模型実験で内陸堤を整備した場合としない場合を比較し、内陸堤による津波遡上抑制効果を検証する。

成果の内容・特徴

  • 背後農地へ津波の遡上を許容した減災計画(以下、「減災農地」)のイメージを図1に示す。減災農地では、現在の消波工、防潮林および海岸堤防による減勢に加えて、内陸の農地に高盛土の農道を配置し、補強盛土とすることで耐久性を高め、2線堤や3線堤といった内陸堤の機能を持たせて津波の遡上を抑制することを期待する。
  • 実験に使用した水理模型の概要を図2に示す。減災農地では、海岸堤防背後に2線堤を配置し、3段の農地の背後に内陸部を防護するための3線堤を設置する。実験では、現況地形と減災農地の模型を並列に配置し、同条件下で実験を行う。
  • 津波が海岸堤防を越流する状況を図3に示す。海岸堤防を越流した津波は、堤防裏法を激しく洗い流すが、背後の2線堤で減勢される様子が確認できる。
  • 津波継続時間が短い場合の浸水深と津波波高を図4a)に示す。本実験での津波遡上抑制効果を3線堤前面に津波が到達する時間の差で評価すると130秒である。海岸堤防を越水した津波は2線堤で減勢され、穏やかに農地を遡上し上流側の3線堤に達するものの、3線堤を越水することはない。一方、現況地形では、海岸堤防を越水した津波は減勢されることなく内陸部終端まで駆け上がる状況が確認される。
  • 津波継続時間が長い場合は、越水量が増えて背後農地の湛水深が3線堤の天端に達すると内陸部まで浸水する。しかし、氾濫水は十分に減勢されており、内陸部の遡上高は3線堤の天端標高を若干超える程度である。なお、津波継続時間が長い場合でも2線堤が減勢効果を発揮し、津波到達を104秒遅らせる(図4b)。
  • 今回の水理模型実験の条件での津波遡上抑制効果はおよそ2分である。なお、民間の調査(http://weathernews.com/ja/nc/press/2011/pdf/20110908_1.pdf)による生存者と亡くなった方の地震発生から避難開始までの時間の差にほぼ匹敵する。

成果の活用面・留意点

  • 背後農地を活用した津波減勢は、全ての農地海岸への適用を想定したものでなく、海岸線の長さや背後の土地利用状況に応じて適否を検討する必要がある。
  • 本研究で設定した水理模型や内陸堤の堤高は仮定のものであり、現地への適用においては、地域の地形や土地利用にあわせた水理模型実験や数値実験をもとに決定する。

具体的データ

図1 背後農地を活用した巨大津波減勢のイメージ
図2 水理模型断面図図3 津波の越流状況
図4 津波波高と3線堤前面の浸水深の変化

(桐 博英、丹治 肇)

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:丹治 肇、桐 博英
  • 発表論文等:桐ら(2012)農工研技報、213:279-286