ため池等の盛土斜面の簡易な原位置せん断強度試験法
要約
特殊なせん断刃付きのバルーンを装着した自動式スウェーデンサウンディング試験機を用いて、ため池等の盛土斜面の安定解析に用いる強度定数(c、φ)を簡便かつ低コストに推定する原位置試験法である。
- キーワード:ため池、原位置試験、強度パラメータ、安定性評価、耐震性評価
- 担当:農村防災・減災・農業水利施設防災
- 代表連絡先:電話 029-838-7574
- 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
老朽化した農業用ため池の安定解析には、堤体土の強度定数である粘着力(c)と内部摩擦角(φ)の調査が不可欠である。従来の調査技術では、ボーリングによる試料採取と室内せん断試験が不可欠であり、調査に多大のコストと時間を要している。また、簡易な貫入試験から強度定数を推定する手法も提案されているが、c、φを同時に推定することができず、十分な精度が得られない。本成果は、軽量なサウンディング試験機を用いて、小径の孔内で回転せん断試験を行うことにより、従来よりも低コストかつ簡便に盛土斜面の強度定数を求める手法である。
成果の内容・特徴
- 地盤の強度は、c、φという2つの定数で表され、拘束圧を変化させた複数回のせん断試験により求められる。提案する手法は、直径35mmのサウンディング試験孔内にせん断刃付きのバルーンを挿入し、孔内でバルーンを膨張させて地盤に拘束圧をかけ、せん断刃により回転せん断したときの回転トルクを測定することによって、地盤の強度定数(c、φ)を同時に推定する原位置調査法である(図1)。
- 測定原理は、図1下段に示すように、バルーンの膨張圧Pとバルーンを回転させたときに測定される回転トルクTから、孔壁にかかる拘束圧σnとせん断応力τnを求めるものである。拘束圧σnを変えた試験を同一孔内で3回以上行うことにより、クーロンの破壊基準に基づき、強度パラメータc、φを求めることができる。本手法により推定した強度定数は、三軸圧縮試験による強度測定結果と比較すると、密度の違いによるc、φの変化をよく捉えられている。密な土で拘束圧が低い場合には高めの強度が計測される傾向があるため、拘束圧を大きく設定して試験を行う必要がある(図2)。
- バルーンは、小礫を含む地盤内で、内圧で膨張した状態で回転しても、簡単に破れない構造となっている。バルーンの側面にはせん断刃が固定されており、せん断刃が抵抗体となって回転することにより、孔壁をせん断破壊させることができる(図3)。
- 調査には、ボーリング機械と比較して軽量(約70kg)な自動式スウェーデンサウンディング試験機を用いる。道路がないアクセスの悪いため池や急勾配の堤体斜面においても、専用の車輪を取り付けるだけで、簡単に搬入・試験を行うことができるため(図4)、調査コストを大幅に縮減できる。また、本試験と同時に、スウェーデンサウンディング試験により、堤体の換算N値を求めることもできる。
- 本試験は、最大で深度15mまでの堤体斜面の調査を対象としている。また、ため池に限らず、一般の盛土斜面でも同様にせん断強度を求めることができる。
普及のための参考情報
- 普及対象:ため池等の盛土の斜面安定に係わる国・地方公共団体、土地改良区、設計コンサルタント、地盤調査会社等
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の老朽ため池を対象に年間十数カ所
- その他:福島県の被災ため池で試験を実施。
具体的データ
(堀 俊和)
その他