弾力的な送水を可能とする既存ため池を活用した多目的型調整池の設計手法

要約

多目的型調整池によって用水需要変動に対応するために、無効放流量とポンプ電気代を最小化するように、連結可能な既存ため池の位置、容積、ポンプ特性曲線の係数およびポンプ運転時間を、数値解析によって設計することができる。

  • キーワード:用水需要変動、ため池、剛性理論モデル、閉路解析、遺伝的アルゴリズム
  • 担当:基盤的地域資源管理・用排水管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7566
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

長期間運用管理されている農業用送配水路では、当初事業計画とは異なる用水需要に対応した合理的な水管理を検討することがある。その一つとして、既存ため池の調整容量を活用した水利調整機能による解決方法が考えられる。しかし、既存ため池は十分に活用されていない現状がある。これらの幾つかを再利用して、新たな用水需要に対応できる水利用計画を立案するには、数値解析による基本的な検討が必要である。本システムは、(1)末端分水工における用水需要量の時間変化を数値で与えることによって、用水需要変動に対応した農業用送配水路内の水理現象を数値解析できることと、(2)無効放流量とポンプ電気代を最小化する既存ため池の容積と位置の選定や、ポンプの運転時間とポンプ特性曲線の最適化を行うことを目指したものである。

成果の内容・特徴

  • 送配水路の入力データをGoogle Earthの地図画面を利用して入力できる(図1(a))。
  • 既存ため池と送配水路を連結するための数値解析手法は、水理現象について水の圧縮性を無視した剛性理論によってモデル化し(剛性理論モデル)、送配水路を複数の閉路で表現する手法(閉路解析)によって状態方程式を得た後に時間積分して数値解を得る手法である。これまで人手によって行う必要のあったグラフ理論に基づく閉路探索と簡易な数式処理をプログラムに実装することによって、自動的に状態方程式を導出して、容易に数値解析を行うことができる(図1(b))。
  • 複数の既存ため池群の中から調整池として有効な候補を選定することができる。その際、無効放流量とポンプ電気代に関する目的関数を最小化する遺伝的アルゴリズムによる最適化を行う。さらに、特定の既存ため池について、その容積や、ポンプの運転時間およびポンプ特性曲線の係数なども最適化できる(図1(c))。
  • 図2に簡単な解析例を示す。例えば、境界条件として分水工に単純化した水利用パターンは用水需要量Qiを与え、既存ため池の活用方法は、用水需要が減少する夜間(午後9時~翌朝午前5時)にポンプを運転し、停止時には逆流を許容する水管理によって行うものとする。目的関数の重みω1ω2を共に0.5とした場合、遺伝的アルゴリズムで探索すると、10回の世代交代後に遺伝型(0 1 0 0 1 )が生き残り、図中の2番目と5番目の既存ため池の組み合わせが調整池として選定される。これは複数の分水工の上流側にあり、水面水位が高くない既存ため池が調整地として有効であることを示唆している。計算所要時間は、Intel Core2 1.86GHzのCPU搭載PCを使用した場合、目的関数の1回の評価にかかった時間が約20秒、最終的な解を得るのにかかった時間は約27分である。

成果の活用面・留意点

本設計手法は、用水事業計画に知識のある農業水利技術者が幹線送配水路の用水事業計画に活用することを想定して研究開発している。また、Google Earthは、Google社との契約条項に従って利用することが望まれる。また、用水需要変動量はTMによる過去の流量観測記録を活用できる。

具体的データ

図1 本システムの構成
図2 幹線送配水路と連結を想定している既存ため池群の例

(田中良和)

その他

  • 中課題名:地域農業の変化に対応する用排水のリスク評価および運用管理手法の開発
  • 中課題番号:420a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:田中良和、樽屋啓之、内村求、坂田賢、友正達美
  • 発表論文等:1)田中ら(2012)農工研技報、212:1-12
    2)田中ら(2012)農工研技報、212:13-28