下水処理水の農業利用による流域から排出される汚濁負荷の削減シナリオ

要約

汚水処理水の農業用水への利用は、流域から排出される汚濁負荷を削減する効果が大きい。分布型流域モデルによる評価では、処理水の流域での滞留に伴う排水量の減少による効果と、非灌漑期の水田への処理水の灌漑による汚濁負荷の削減効果が大きいことがわかる。

  • キーワード:窒素、リン、有機物、生活排水、灌漑、分布型モデル
  • 担当:基盤的地域資源管理・用排水管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7545
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

下水道が整備されている場合には、家庭や工場・事業場からの排水は管水路を通じて下水処理施へ集められ処理された後、河川や海へ放流される。現在、その量は全国で約83百万人規模であり、その1人あたりの排水量を0.3m3 d-1と考えても、年間約92億m3の排水量となる。農業用水として年間使用される灌漑水量の約546億m3に対して約17%に匹敵する。

流域の水環境保全と健全な水循環の構築、及び農業用水が不足しやすい下流域や島嶼部で新たな農業用水の確保のためには、生活排水を農業用水として利用し水の再資源化を図ることが、有効な手段となる可能性がある。

成果の内容・特徴

  • 分析に使用したモデルは、流域を114m × 93mの格子で離散化した流域メッシュモデルに河川・排水路を線分で離散化した水路モデルを重ね合わせた二層の分布型モデルであり、そのなかで流域の水と栄養塩及び有機物の反応と移行を表現するものである(図1)。
  • 面積が65.62km2で、その60%以上が水田、人口が約9万人の地方都市の流域を対象に、表1に示す処理水を農業用水として利用するシナリオについて、流域から排出される負荷の削減効果をモデルによって分析したものである(図2)。
  • シナリオ分析の結果からは、図1に示すとおり、処理水を水田に灌漑し一旦貯留することによって、流域内の蒸発散量が増加するとともに流域からの排水量が現況より0%~13%減少している。
  • また、流域からの窒素の排出負荷量は、現況に比べてシナリオでは16%~46%減少する。とくに、非灌漑期に処理水を水田へ灌漑するシナリオでは、灌漑期のみの場合に比べて排出負荷の削減効果が顕著で、13%~15%減少している(図3)。
  • さらに、処理水を農業用水として利用した量に見合う分を河川からの取水量から削減することが出来る場合には、より負荷削減の効果があり、窒素負荷量は約半分になっている(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 処理水を主要な農業用水として利用するためには、周辺住民、農業者及び作物への暴露に対する安全・安心性、並びに有機物や重金属の蓄積による土壌汚染の防止に関する科学的な検討を必要とする。

具体的データ

図1 流域メッシュモデルと水路モデルによる二層分布型モデル図2 下水処理水の農業利用のイメージ
表1 処理水の農業利用の分析シナリオ図3 流域からの排水量と窒素排出負荷の計算結果

(白谷栄作、濵田康治、人見忠良)

その他

  • 中課題名:地域農業の変化に対応する用排水のリスク評価および運用管理手法の開発
  • 中課題番号:420a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:白谷栄作、濵田康治、人見忠良
  • 発表論文等:1)Shiratani E. et al. (2010) Journal of Environmental Sciences, 22(6):878-884