CSAを通じた都市住民参加による遊休農地再生

要約

生産者と消費者が連携して地域の農業を支える仕組みであるCSAは、都市近郊地域において生産者と都市住民間の交流を促進しながら、援農や集配作業等の農場運営に都市住民の主体的な参加を得ることで持続的な営農を実現し、遊休農地再生への効果を発揮する。

  • キーワード:CSA(Community Supported Agriculture)、住民参加、遊休農地解消、有機農産物
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7549
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

CSA(Community Supported Agriculture)は、生産者と消費者が連携し、農産物の定期契約を通じて相互に支え合う仕組みである。近年、欧米を中心に世界的に拡がりつつある。CSAは、有機農産物等の高付加価値な農産物を消費者が長期間の単位で前払いする契約方式であり、天候不順などによる経営リスクを生産者と消費者が共有する点に特徴がある。日本国内のCSAは、数事例が成立するのみにとどまるが、都市住民等の多様な人材の参加による農業振興や農地保全への展開が期待される。そこで国内のCSAの先進的な事例である神奈川県大和市なないろ畑農場を対象に、CSAの導入による遊休農地再生への効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • なないろ畑農場は、1名の生産者が設立した農業生産法人株式会社が経営し、近隣の市に在住の都市住民73世帯と、農産物の定期契約を結んでいる(表1)。農場の運営には、援農や集配作業、会計等の業務に会員の主体的な参加がみられる。農場発足の経緯は、まず都市住民による環境保全活動とそれを促進するための地域通貨活用を契機に、資源循環や環境保全に対する関心が高まり、その結果都市住民による農場運営への主体的な参加を得ながら経営規模を拡大することで、漸増的に遊休農地を再生させている(表2)。
  • なないろ畑農場が経営する計190aの圃場は、いずれも都市的地域である大和市、綾瀬市内の遊休化した畑地の借地であり、両市の耕作放棄地面積総計3,300aの約6%に相当する。圃場は12箇所に分散し、市街地にある出荷場と圃場間の移動には時間を要するものの、農機や資材置き場となる拠点圃場を2箇所に設け、それぞれ重点的に圃場管理を行う担当者を配するなどの工夫により、圃場分散の不利を解消している(表3、図1)。また、労力を要する遊休農地の復元作業は、都市住民の協力を得て行われている。
  • 農場は、無農薬、無化学肥料による有機栽培を行っている。使用する堆肥には公園の落ち葉や、リサイクル業者が回収した樹木剪定チップを利用していることから、地域の資源循環に寄与している。労力を要する公園の落ち葉収集には、会員の協力を得ている。また、圃場の約20%の面積には、緑肥作物を作付することで遊休農地の活用を図っている。
  • 農場には経営主以外に、農作業や出荷作業等を担うコアメンバー(支援者)が25名おり、うち20名は農産物を購入する会員である(図2)。一方、会員の約7割は農場運営への積極的な関与がみられない一般会員であり、慢性的に労力が不足している出荷作業への参加促進が課題となっている。しかし、こうした会員による継続的な契約と出荷場への直接引き取りは、農場の持続的な営農につながっている。また、会員以外にも地元住民のボランティアが5名参加し、増加傾向にあるなど、地域住民による支援が広がりつつある。

成果の活用面・留意点

  • CSAは環境保全型農業技術や消費者とのコミュニケーションを学べる点で、新規就農者の研修先として適する一方、農場にとって研修生の受け入れは労働力確保につながる。
  • CSAは都市住民による支持によって成立するため、CSAの導入を通じて遊休農地の活用を図ろうとする場合には、都市近郊地域を対象とする方が有効である。

具体的データ

表1 神奈川県大和市なないろ畑農場の概要表2 CSA導入と遊休農地の活用
表3 なないろ畑農場の圃場図1 圃場位置と作業の移動経路
図2 なないろ畑農場の会員の動き

(唐崎卓也)

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能の強化技術および保全管理技術の開発
  • 中課題番号:420b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:唐崎卓也、坂根勇、福與徳文、石田憲治
  • 発表論文等:1)唐崎(2010)AFCフォーラム、2010年6月号:11-14
    2)唐崎(2010)第58回日本農村生活研究大会要旨:36-37