農地・水保全管理の円滑な推進のための地域資源情報管理システム

要約

農地・農業用水路等の施設資源の保全管理と長寿命化を担う農地・水保全管理活動を円滑に進めるための地域の情報共有システムである。地域住民が施設の点検・補修履歴カルテや景観・生物生息分布カルテを利用して、容易に地域資源保全が可能となる。

  • キーワード:農地・水保全管理支払交付金、地理情報システム、長寿命化、点検・補修
  • 担当:基盤的地域資源管理・自然エネルギー活用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7600
  • 研究所名:農村工学研究所・技術移転センター
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農地・農業用水等の資源の適切な保全管理を目的として、国は2007年度から「農地・水・環境保全向上対策」を実施してきている。本年度からは、高齢化等による集落機能の低下を踏まえ、新たに集落が行う農地周りの水路・農道等施設の長寿命化のための補修・更新などの活動に対する支援が強化されている。

しかし、集落等の活動組織では、施設の補修履歴や位置など体系的な資源情報管理が行われておらず、効果的な長寿命化対策(補修・更新等)の推進のためには、住民活動の対象となる資源の位置と属性情報、点検・補修履歴カルテを作成し、継続的かつ適時に情報利用されることが重要である。

そこで、農地・水保全管理支払を進める地区に農工研が開発した地理情報システム「VIMS」を導入し、水路の維持管理など住民主体の共同活動を支援する簡易な地域資源情報管理システムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、農村工学研究所が開発した3次元の農地基盤地理情報システムVIMS(Village Information Management System、インターネットを介して地図上で整備した農業・農村に関わる情報を共有できる図1のシステム)を活用し、地域住民が簡単に操作できる資源情報管理システムであり、資源保全施策の推進を支援するツールである。
  • 従来の類似システムは、農家・地域住民が利用するには操作が困難であったが、本システムは、住民ワークショップにおいて、自分たちの地域の農業や農村環境に合わせてシステムを容易に改良でき、高齢者でも簡単に使え、安価である(図2)。
  • 農地・水保全管理活動に取り組む山形県河北町元泉地区を対象として、学習型ワークショップの積み重ねによる知見を踏まえて、活動の運営に必要な項目の抽出やデータ入力を住民自らが行える自由度の高いシステムを開発した(図3)。
  • 例えば、農業用水路のカルテでは、基礎諸元である水路延長、断面形状、勾配、代かき期流量、水深に係るデータだけでなく、点検・補修履歴である不等沈下、目地破損、漏水等のデータも逐次入力でき、地域住民自らが情報の整理・情報共有ができる(図4)。さらに、景観画像、生き物生息情報等のデータベースも入力・共有できるため、地域資源保全管理の活動を通して、ブランド戦略や観光への展開も期待できる。
  • なお、学習型ワークショップは、地域資源管理の意義の説明→地理情報システムを活かす方法の説明→基本操作講習会→住民による必要なデータベースの構築と設計→住民による水路情報の蓄積のための調査と情報入力→住民による景観・文化・生物資源調査と情報入力の順で行うと効果的である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:事業対象の活動組織、土地改良区、土地改良事業団体連合会、農業生産法人。
  • 普及予定地域:農地・水保全管理支払交付金対象地域から3年で100組織を目標。
  • その他:運用にはVIMSの導入が必要。作成済みのマニュアル配布、研修会等を開催。

具体的データ

図1 地域資源情報管理システムの情報共有の構造図3 住民ワークショップでの システム策定の様子
図4 農地・水保全管理用カルテとVIMS上の表示画面

(山本徳司)

その他

  • 中課題名:自然エネルギー及び地域資源の利活用技術と保全管理手法の開発
  • 中課題番号:420c0
  • 予算区分:交付金、受託研究
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:山本徳司
  • 発表論文等:1)山本(2011)土地改良の測量と設計、74:27-32
                       2)重岡ら(2011)農工研技報、211:71-95
                       3)山本(2011)農工研ニュース、27:2