灌漑用揚水水車の存廃要因と利用状況

要約

揚水水車を利用する理由は、重力灌漑ができない条件不利水田で、ポンプ等に比べ燃料代等が軽減されることや、労働負荷の緩和等である。また、利用されなくなった要因は、土地改良事業等による水利システムの変更、減反、水車製造者の減少である。

  • キーワード:伝統的農業水利施設、揚水灌漑、聞き取り調査
  • 担当:基盤的地域資源管理・自然エネルギー活用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7583
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

灌漑用揚水水車は、戦後の高度経済成長期以降利用数が漸減しているが、継続して灌漑目的で利用する集落も散見される。水車を利用することは自然エネルギーを動力源とするためCO2排出量が削減されることや地域の景観形成に寄与する等のメリットがある。水車の利用を促進するためには、揚水水車の存廃要因等を明らかにすることが重要である。本成果では、文献調査および現地調査を通して揚水水車の利用数の変化や農業者が揚水水車を選択的に利用する理由、揚水水車が撤去される理由等を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 文献調査により1980年代前後に栃木県から鹿児島県までの77地区で灌漑用揚水水車が利用されていたことが確認された。2007年~2009年にこれらの地区への悉皆調査を行い、43地区で143基の利用を確認した。これは1980年代に利用された基数の約1/3である。
  • 利用される揚水水車を分類すると、灌漑目的のみの利用が29地区86基、灌漑目的かつ観光目的が8地区29基、観光目的のみが3地区19基、休止状態が5地区9基である。このうち灌漑目的で利用される全てが個人で利用・管理されるのに対し、観光目的で利用される大半は、地方自治体や集落等で利用・管理がなされる。
  • 揚程は揚水水車の直径に規定され、概ね直径の1/2である。利用目的に拘わらず直径は1.5m~2.5mが多い(図1)。存廃別に見てもその傾向に差はなく、揚水水車の直径(揚程)は存廃要因に影響しない。
  • 文献調査と利用者もしくは土地改良区職員からの聞き取り調査によると揚水水車の利用理由は、重力灌漑ができないことが圧倒的多数の理由で、そのほかに経済性、労働負荷の緩和、景観要素としての地域資源保全等である(表1)。撤去理由は、土地改良事業による水利システムの変更、減反、水車製造者の減少等である。撤去された所で引き続き水田として利用している箇所は、全体の1/4程度と推察される(図2)。
  • 揚水水車は、重力灌漑ができないような条件が不利な水田の灌漑方法として利用されるため、近年で大幅に利用を減らしたが、利用が継続される地域では、農業者がポンプ等の競合機器と比較して選択的に利用している。

成果の活用面・留意点

  • 今後、揚水灌漑が必要な小規模水田は土地改良事業等で大規模化される可能性がある。土地改良事業の実施は揚水水車の撤去理由であるが、温室効果ガスの削減の要求等の昨今の社会情勢を鑑みれば、環境に配慮した農業農村整備を実施するために、水車を揚水手段として利用できる設計方法の確立が望まれる。
  • 揚水水車の利用促進には、本成果に加えて水利条件等を考慮して導入適地を明らかにする必要がある。

具体的データ

図1 利用形態別の揚水水車の直径の頻度分布
表1 揚水水車の利用理由図2 揚水水車が廃止された水田の現在の土地利用

(廣瀬裕一)

その他

  • 中課題名:自然エネルギー及び地域資源の利活用技術と保全管理手法の開発
  • 中課題番号:420c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:廣瀬裕一、嶺田拓也
  • 発表論文等:1)廣瀬ら(2009)農業農村工学会誌、77(12):991-994