土地改良施設を利用した小水力発電実施の経済性評価指標

要約

土地改良施設を利用した小水力発電を実施する場合に、最大出力、年間発生電力量、kW当たりの建設単価やkWh当たりの建設単価、償還年数と売電単価の関係は、建設実施の可否を判断する上で有効な指標となる。

  • キーワード:小水力発電、土地改良事業、経済性評価、建設単価
  • 担当:基盤的地域資源管理・自然エネルギー活用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7614
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

太陽光発電、風力、バイオマス、地熱等の再生可能エネルギーへの関心が高まっているが、ダム、頭首工、農業用水路などの土地改良施設を利用した発電出力が数千kW以下の小水力発電は、1983年から土地改良施設における電力使用料の負担軽減を目的とし、かんがい排水事業の一工種として建設されている。発電所建設のための調査は、全国100地区以上で行われており、このうち2009年時点で全国26地区の発電所が建設されている。ここでは発電調査実施地区は多いにもかかわらず、発電事業実施地区が少ない点に着目して、「全国土地改良事業団体連合会(1995):小水力発電計画状況とりまとめ報告書」をもとに、発電事業実施の可否に関して、主に経済的な観点から分析する。

成果の内容・特徴

  • kW当たりの建設単価と最大出力の関係から、実施地区の最大出力は概ね200kW以上であり、未実施地区の多くは最大出力が250kW以下である(図1)。また、実施地区のkW当たりの建設単価は500,000~1,500,000円/kWである。
  • kWh当たりの建設単価と年間総発電量の関係から、実施地区の年間総発電量は概ね100万kWh以上であり、未実施地区の多くは、年間総発電量が100万kWh以下である(図2)。また、実施地区のkWh当たりの建設単価は100~400円/kWhである。
  • 実施地区は、kW当たりの建設単価が50~150万円/kW、kWh当たりの建設単価が150~250円/kWhの範囲に概ね入る(図3)。聴き取り調査の結果、経済的には有利であるにもかかわらず実施に至らない理由として、親事業である土地改良事業がない、冬期の水利権がない、発電所管理のための要因整備が困難、地元受益者の同意が得られないなどがある。
  • kW当たりの建設単価が150万円/kW以下、kWh当たりの建設単価が250円/kWh以上の未実施29地区について売電単価と償還年数の関係を検討した。各地区のkWh当たりの建設単価(=A)と償還年数(10年~30年まで5年間隔で変化させる)×売電単価(=B)を比較したとき、29地区に対してA<Bとなる割合を建設可能性とした。売電単価が10円では償還年数を長くしても建設可能性は30%程度であること、売電単価が15円になると償還年数が25年で建設可能性が60%を越え、売電単価が25円以上になると償還年数が15年でも建設可能性が約60%と高くなる。買い取り価格が20~25円/kWh、償還年数が20~25年になると建設可能性が高くなる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 普及対象は、土地改良区、行政、NPO等発電を計画している団体、組織である。
  • 普及は、全国の農業用水を利用して小水力発電を計画中の地区である。
  • 今回の建設率、償還年数と売電単価の検討において、償還期間中の維持管理費を考慮しておらず、実際の償還年数はさらに長くなる。発電の建設では初期投資が多額になることから、買い取り価格の検討と同時に補助金のあり方についても検討が必要である。

具体的データ

図1 kW当たりの建設単価と最大出力の関係図2 kWh当たりの建設単価と年間総発電量の関係
図3 kW当たりの建設単価とkWh当たりの建設単価の関係
図4 建設可能性、償還年数と売電単価の関係

(後藤眞宏)

その他

  • 中課題名:自然エネルギー及び地域資源の利活用技術と保全管理手法の開発
  • 中課題番号:420c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:後藤眞宏
  • 発表論文等:1)後藤ら(2012)農工研技報、212:127-136