放射性物質に汚染された農地土壌の効率的な除染工法

要約

放射性物質に汚染された農地の表層土壌の固化、油圧ショベルバケットのスイング運動による剥ぎ取り、剥ぎ取った汚染土壌の吸引・収集、から構成される除染工法は、従前の操作と比較して、少ない処理土量で高い除染率を実現しうる。

  • キーワード:放射性物質、除染、表土剥ぎ、土壌固化剤、油圧ショベル
  • 担当:
  • 代表連絡先:電話 029-838-7555
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第1原発の事故に伴い、広範囲にわたる地域が放射性物質により汚染され、土壌中の放射性物質濃度の高い農地では栽培が制限されている。これらの農地において放射性物質は、表層2~3cmに集積していることから、この土壌層の選択的な除去は、確実な除染効果が期待できる。一方、一般的な建設機械による従前の操作では、剥ぎ取り厚さの制御が困難であり、処理土量の増加や施工費の増大、取り残しの発生など、多くの問題が懸念されている。そこで、剥ぎ取り厚さを放射性物質の集積している表層2~3cm程度に制御し、かつ安全・確実に剥ぎ取る工法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 工程1:土壌固化剤を添加したスラリーを散布し、表層のみに浸透させることで汚染土壌を固化し、除染時の確実性、施工性、安全性の向上を図る(図1)。なお、使用する土壌固化剤は、栽培や環境への影響が少ないマグネシア系固化剤が好ましい。
  • 工程1のメリット:1)降雨による汚染土壌の流出や風による飛散を防止、2)固化した汚染土壌は未固化の土壌と物性が異なるため、選択的な剥ぎ取りが可能で、取り残しも発生しにくい、3)マグネシア系固化剤使用時には、汚染土壌が白色にマーキングされ、目視による施工管理が容易、4)汚染土壌の粉塵巻き上げが起きにくく、施工時の安全が向上する。
  • 工程2:地盤が軟弱で小さな凸凹が存在する水田において、厚さを2~3cm程度の汚染土壌の剥ぎ取りを実現するため、油圧ショベルの旋回機能を利用し、バケットを左右にスイングして表層土を剥離し、汚染土壌をスジ状に集積する(図2)。
  • 工程2のメリット:1)油圧ショベル本体が停止したまま、バケットに接続したアームのみ作動させることにより、剥ぎ取り厚さが制御できる、2)複数関節のアームによって、地面の凹凸に応じた制御が可能、3)目視で剥ぎ取り厚さを確認しながら操作できるため、施工管理が容易で処理土量の増加や取りこぼしが回避できる、4)さらに、バケットのアームにバキュームの吸引ホースを接続する改良により、剥ぎ取りと同時にバキューム車のタンクに汚染土壌が吸引・収集され、安全性、確実性や施工性が向上する(図3)。
  • 本工法では、従前の操作より51~80%の処理土量で同等な除染効果を達成できる(表1)。さらに、福島県飯舘村伊丹沢地区の水田(10a区画)において、剥ぎ取り厚3.0cm、処理土量32m3/10a、除染前後の放射性物質濃度の低減率82%の実績を有する(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:除染事業を行う国や県など事業主体および事業者
  • 普及予定面積:最大で、放射性セシウム濃度が5,000Bq/kg以上の耕起されていない約8,300haの農地
  • その他:環境省が実施中の「除染技術実証試験事業」において、約4haの施工実績。また、農水省が実施予定の「農地除染対策実証事業」の仕様に本工法の一部が採用。

具体的データ

図1 土壌固化剤の散布状況
図2 表層土の剥ぎ取り状況(ワイパー工法)
図3 油圧ショベルの改良バケット(ワイパー・バキューム工法)
図4 除染前後の放射性セシウムの分布(福島県飯舘村伊丹沢地区)表1 研究所内での予備試験結果

(若杉晃介)

その他

  • 中課題名:低コスト整備と水位制御による農地の生産機能強化技術の開発
  • 中課題番号:111a3
  • 予算区分:交付金、戦略推進費
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:若杉晃介、原口暢朗、瑞慶村知佳
  • 発表論文等:1)表層土壌の物理的除去工法(特願2011-178236)
                       2)表層土壌の剥ぎ取り収集工法及びバケット(特願2011-184127)