農地の排水性を改良する低コストな補助暗渠工法

要約

土塊の切断・持ち上げ、有機質資材の投入、埋め戻しの3工程を施工機械の1回走行で実施できる有材補助暗渠「カッティングソイラ工法」は、排水性の改善を通じて畑作物の生産性を向上し、従来工法に比較した施工費の低減により、早期の普及が見込まれる。

  • キーワード:畑作物、生産性向上、排水改良、有材補助暗渠、低コスト
  • 担当:
  • 代表連絡先:電話 029-838-7555
  • 研究所名:農村工学研究所・農村総合研究部・水田汎用化システム研究チーム
  • 分類:普及成果情報(2010年度)

背景・ねらい

排水不良な転換畑等における畑作物の生産性向上には、ほ場の排水性の改良が不可欠である。実効ある排水改良のためには、本暗渠に補助暗渠を組み合わせる必要があるが、既存の無材補助暗渠は効果の持続性に劣る。また、既存の有材補助暗渠は耐用年数が15年以上と持続性に優れるが、高コストのため補助事業として実施されており、普及のペースは遅い。そこで、早期の普及が可能な低コストな有材補助暗渠技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 施工工程:1)有機質資材を表面に敷設する。2)建設機械により牽引される施工機(図1)の切断刃で30~60cmの任意の深さまでの逆台形の土塊を切断成形し持ち上げる。3)同時に表面の資材を約120cmの幅で掻き寄せて、持ち上げた土塊の横に開いた縦溝状の土中空洞内に有機質資材を疎水材として落とし込み、下層土に疎水材を充填した溝(有材補助暗渠)を作る(図2)。
  • 施工効率上の優位性:従来の有材補助暗渠施工における土の掘削、資材の投入、土の埋め戻しの3工程を1工程で(施工機械の1回走行のみで)実施することができるため、作業効率は無材補助暗渠施工と同等である(0.1~0.2ha/h)。また、資材の投入において、従来工法では必要であったホッパーと作業員が不要となり、施工機の軽量化と人件費の削減が図られる。
  • 施工コスト上の優位性:上記した作業効率の向上および人件費の削減などにより、施工コストは従来工法(1,600千円/ha)より大幅に低減され、早期普及に寄与する(表1)。
  • 営農上の効果:本工法は、排水改良と有機質資材投入による土壌肥沃度の改善による畑作物の増収・増益をもたらす(表1)。非補助の条件で整備費を償還した場合の試算によると、有材補助暗渠の一般的な耐用年数である15年より短期間の5年以内に増益による償還が可能であり、農家の自力施工による普及が可能である(表1)。
  • その他の効果:本工法では、ホッパーでは不可能であった多様な資材(例えば、ワラ)を疎水材として投入でき、バイオマス資源をより有効に活用できる。
  • 適用条件:粗大な石やレキが存在する以外、幅広い土壌に適用可能である(表2)。なお、長期的な耐久性は、継続調査により明らかにする。

普及のための参考情報

  • 普及対象:転換畑等において畑作物の生産性向上を目指す営農関係者・行政担当者
  • 普及地域・面積等:北海道で2011年度までに約100haで普及(農家の自己負担での施工が多い)。今後、補助事業(例えばhttp://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/nsk/hatasanchi.pdf (p.6))などを活用した排水改良工事として、年間数百~千haの導入が見込まれる。
  • その他:営農用トラクタで牽引可能な小型施工機の開発に関して、民間から特許(特開2011-78322)実施許諾申請がなされている。これが実現すれば、普及の拡大が期待できる。

具体的データ

図1 施工機表2 適用条件及び資材投入量等の目安
図2 施工工程
表1 畑作物の増収効果と経済性

(北川巌)

その他

  • 中課題名:田畑輪作に対応した生産基盤整備技術の開発
  • 中課題番号:211-l
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009年度~2010年度
  • 研究担当者:北川巌、原口暢朗、若杉晃介、瑞慶村知佳、常田大輔(北海道農業開発公社)
  • 発表論文等:1)北川ら(2010)農業農村工学会誌、78(11):899-902
    2)北川ら(2011)、特開2011-78322