2012年5月6日の竜巻によって被災したパイプハウスの実態把握

要約

2012年5月6日に生じた竜巻によるパイプハウスの被災実態を調査する。竜巻の場合は台風とは異なり、被覆材のみの破断はほとんど生じることなく、骨組が破壊される。アーチパイプ地際の腐食や、アーチパイプと桁行直管の接合部の回転により被災が助長される。

  • キーワード:パイプハウス、竜巻、被災時の風向、風速の増加、風圧力
  • 担当:日本型施設園芸・低コスト設計・制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-7655
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地中押し込み式パイプハウス(以下、パイプハウスと呼ぶ)は軽量構造物であり、フジタスケールがF1以上の竜巻に対して抵抗する性能を有していない。竜巻の進路上にあるパイプハウスは、突風によって構造が破壊される。竜巻によるパイプハウスの被災パターンは、台風の場合と異なる。このような異なる気象現象ごとに、適切な強風対策を実施する必要がある。そこで、2012年5月6日に発生したF3の竜巻によって被災した茨城県つくば市、F1~F2の竜巻によって被災した栃木県益子町および真岡市のパイプハウスを調査し、被災特徴からパイプハウスと風圧力の関係について整理する。

成果の内容・特徴

  • 今回の竜巻(F1~F3)では、竜巻の進路上に位置したパイプハウスは骨組が完全に倒壊する(図1、図2)。被覆材および支持条件の違いによる被災パターンの大きな相違点はない。
  • 被災した全てのパイプハウスにおいて、風上側側面が転倒する。ほとんどのアーチパイプが、地面に押しつけられるように変形する。破壊されたパイプハウスの骨組は飛散することなく、原位置に残留する(図2)。
  • 被災したパイプハウスは浮き上がることなく水平力による変形を示すことから、竜巻到達の比較的早い段階で構造の倒壊に至ることが明らかである。パイプハウスの強度は一般の建築物に比べて著しく小さいため、旋回する流れによる水平方向の風による破壊が支配的で、竜巻中心部の上昇流による被害は小さい(図3)。
  • 台風接近時にはパイプハウス構造の脆弱な箇所から段階的に破壊されるのに対して、竜巻の場合は被覆材が破断する時間的猶予がない。全ての種類の被覆材が破断しないまま、風圧力を骨組に伝達する。パイプハウスに作用する風圧力が同一であることで、被災パターンのバリエーションが乏しくなる(図4)。
  • アーチパイプ地際が腐食しているパイプハウスは、竜巻の進路から距離が離れていても破壊される。また、アーチパイプと桁行直管を連結する接合部が容易に回転すると、被災を助長する。パイプハウスの被災程度を軽減するために、アーチパイプ地際および埋設部に対する施工後の腐食点検が必要である。接合部の回転を抑制し、アーチパイプと桁行直管の直交を維持できる接合部材の開発が必要である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果では竜巻の規模をフジタスケールで記載している。竜巻の規模はF0(推定風速18~32m/s)、F1(同33~49m/s)、F2(同50~69m/s)、F3(同70~92m/s)と定義される。
  • わが国では年間20個程度の竜巻が発生するが、F0の発生数が最も多いため、F0の竜巻に限定したパイプハウス構造を検討することが現実的である。
  • F1以上の竜巻に対するパイプハウス構造の補強は、生産施設としては過大となり現実的ではない。地域的には極めて限定された被害となるため、保険制度の充実が不可欠である。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:安全・省エネ・好適環境のための低コスト施設設計・環境制御技術の開発
  • 中課題番号:141b0
  • 予算区分:交付金、科研費特別研究促進費
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:森山英樹、奥島里美、石井雅久、佐瀬勘紀
  • 発表論文等:森山ら(2012)農業施設、43(4):152-159