排水路や農道が整備された沿岸部農地に適用する浸水解析モデル

要約

水路網が整備された沿岸農地の浸水過程を忠実に再現できるモデルである。本モデルは、水路を浸水域から分離し、1次元でモデル化することで細い水路でも容易に解析に取り込めるほか、解析をブロック単位で行うことで、道路等による浸水の遮蔽を表現する。

  • キーワード:高潮、減災計画、農地海岸、浸水解析、シミュレーションモデル
  • 担当:気候変動対応・農地・水気候変動
  • 代表連絡先:電話 029-838-7568
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農地海岸の背後に広がる農地は、地盤標高が低いため高潮等による浸水被害を受けやすく、その傾向は気候変動の影響でさらに顕著になると考えられている。農業地域に整備された水路は浸水域の拡大や湛水した水の排水に重要な役割を果たすほか、道路は浸水を遮る効果がある。このため、浸水範囲の再現や排水施設の機能の評価では水路や道路の効果を考慮する必要がある。一方、将来の浸水被害の予測や減災対策の構築において浸水解析は有益なツールであるが、水路や道路のように幅が狭い構造物を浸水解析に取り込むには空間解像度を高くする必要があり、実用上の問題がある。このため、農業地域の水路や道路を容易に解析に取り込める浸水解析モデルを構築する。

成果の内容・特徴

  • 本モデルは、水路や農道が整備された沿岸部の農地における高潮や洪水による浸水を解析する有限要素モデルである。本モデルでは、水路と浸水域・海域を分離し(図1)、水路流れを1次元不定流モデルで解析し、水路壁等からの越流量で浸水域と水路流れを結合する。
  • 水路流れの解析に浸水域と同じ2次元平面流モデルを用いると水路幅に応じた細かい計算メッシュを作成する必要がある。水路流れの解析に1次元モデルを用いることで、水路幅を計算データの1つにすることができ、計算メッシュ分割で考慮する必要がなくなることから幅の狭い水路でも容易に解析に取り入れることができる。
  • 浸水域および海域の流れは、水路や道路で囲まれた領域を1つのブロックとし、ブロック毎に2次元平面流モデルで解析する(図2)。平面流モデルの有限要素定式化では、解析領域の境界から外に向かう流速をゼロにする境界条件を組み込んでいる。これにより、各ブロックを1つの解析領域として解析することで浸水がブロックの外周から外に流出せず、道路等で浸水が遮られる様子が表現される。なお、浸水深が道路等の標高を超える場合は、隣接するブロックに越流量を渡すことで浸水が広がる。
  • 水路流れの解析にはCIP(Cubic Interpolated Pseudo)法を適用し、常流と射流が混在する複雑な流れが生じても計算できる。また、浸水域および海域の流れには、数値振動を抑える効果がある気泡関数要素を導入することで計算の安定化を図る。
  • 本モデルを用いた解析では、小河川を遡上した高潮が上流側で浸水した状況が再現され(図3)、浸水被害の想定や避難計画の策定に有益な情報を提供する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:行政機関、民間コンサルタント等で浸水被害想定に携わる技術者。
  • 普及予定地域:浸水被害リスクの評価を必要としている地域。浸水域の解析には2次元非線形浅水長波モデルを用いており、津波や洪水による浸水解析にも適用できる(図4)。
  • その他:技術支援を通じ、浸水被害想定におけるモデルの浸透を図る。レーザープロファイラによる詳細な地形データを用いれば、より再現性の高い解析結果が得られる。

具体的データ

 図1~4

(桐 博英)

その他

  • 中課題名:気候変動が農地・水資源等に及ぼす影響評価と対策技術の開発
  • 中課題番号:210e0
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:桐 博英、丹治 肇、中矢哲郎
  • 発表論文等:
    1)桐ら(2012)プログラム登録「沿岸農地の氾濫解析モデル」
    2)桐(2012)農村工学研究所報告、51:109-164