バイオエタノール生産技術のLCAのための経済波及効果・GHG排出量推定手法

要約

統計データが不足する途上国等におけるバイオエタノール生産技術のライフサイクル評価(LCA)のため、GTAPデータをもとに産業連関モデルを適用して生産施設建設・運用・廃棄の期間にわたる生産誘発額や温室効果ガス(GHG)排出量を推定する手法である。

  • キーワード:GTAPデータ、LCA、温室効果ガス排出量、産業連関モデル、生産誘発額
  • 担当:バイオマス利用・地域バイオマス利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7507
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

稲わらを原料とするバイオエタノールの生産技術のような新技術について、経済面・環境面からの有効性を検証するため、ライフサイクル評価(LCA)が実施される。対象国の産業構造を踏まえたLCA評価の手法として産業連関表を活用した方法があるが、途上国等を対象に評価を行う場合は、統計データの制約から、この方法の適用が困難な国も多い。本手法は、バイオエタノール生産技術のLCAのため、世界129ヵ国のデータが公表されているGTAP(Global Trade Analysis Project)のデータから構築する産業連関モデルを適用して生産施設建設から運用・廃棄の期間にわたる生産誘発額・付加価値誘発額及びGHG排出量を推定するものである。この手法は、バイオエタノール以外の生産技術に関するLCAにも適用可能である。

成果の内容・特徴

  • GTAPのデータベースや国民経済計算をもとに推計した産業連関表から逆行列係数等を求め、バイオエタノール生産のような生産施設建設、製造、施設廃棄の各段階の費用データ(別途推定)と合わせて、施設建設から運用・廃棄のライフサイクル期間にわたる経済効果(生産誘発額及び付加価値誘発額)やGHG排出量を定量化する(図1)。経済効果やGHG排出量は、製造過程・直接消費過程に加え、所得変化を通じた間接消費過程を考慮し、消費を内生化した産業連関モデルを用いて評価する(図2)。
  • 本手法をベトナムにおける稲わらを原料とするバイオエタノール生産技術に適用すると、現在既に運用されている生産施設で採用されている現状技術と日本の製造実証事業が目標としているような先進技術では,ライフサイクルにわたる生産誘発額が投入額(費用)を下回る。しかし,前処理の効率化とエタノール変換効率のより一層の向上を実現する革新的技術では,生産誘発額が投入額を上回るとともに,付加価値誘発額も大きくなり、経済的なメリットが大きくなる(表1)。
  • GHGの排出量をみると,現状技術では,ライフサイクルのGHG排出量がバイオエタノールで代替されるガソリン消費から排出されるGHGの排出量を上回り、環境面の効果はマイナスとなる。一方,先進技術と革新的技術の場合は,バイオエタノール生産によりライフサイクルのGHG排出量がガソリン消費のときよりも削減でき、経済効果とともに環境面の効果も大きくなる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • バイオエタノール生産技術の他にも,統計データが不足する東南アジア等の地域における新技術の環境面の適用性を検討する場合に活用できる。
  • 生産構造の変化に対応するため、統計データの改訂にあわせてデータの更新が必要である。

具体的データ

 図1~2、表1~2

その他

  • 中課題名:地域資源を活用したバイオマス循環利用システムの開発
  • 中課題番号:220e0
  • 予算区分:JST/JICA-SATREPS(HCM-Biomass)
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:國光洋二、上田達己
  • 発表論文等:
    1)國光ら(2013)地域学研究、42(3):56-70
    2) Kunimitsu Y et al.(2013)PWE、11:411-421