畑地におけるメタン発酵消化液の肥料効果と環境影響
要約
畑地においてメタン発酵消化液を環境保全的に液肥利用するために、アンモニア揮散、地下への窒素溶脱特性等の一連の情報を整理する。消化液は施用方法によるアンモニア揮散特性を考慮して施肥設計することにより、環境負荷を増加させずに、肥料効果を発揮できる。
- キーワード:施肥設計、地下水汚染、窒素循環、アンモニア揮散、黒ボク土
- 担当:バイオマス利用・地域バイオマス利用
- 代表連絡先:電話 029-838-7507
- 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
メタン発酵消化液(消化液)は、メタン発酵でメタンを取り出した後に残る液体で、液肥としての利用が期待されている。水田と比べて作付け時期が分散している畑地で利用できれば、消化液の輸送・散布労力を分散できる。消化液は、無機態の肥料成分を含むという点で化学肥料と似ているが、消化液の施用後における動態は化学肥料とは異なる部分がある。本成果では、畑地において環境負荷を増加させずに消化液に含まれる肥料成分を有効利用するために、アンモニア揮散特性、地下への窒素溶脱特性等(表1)の一連の情報を整理したうえで施用方法を提案する。
成果の内容・特徴
- 消化液を土壌表面に施用すると、消化液中のアンモニア態窒素の一部が揮散し、その量は施用後3時間以内が多い。しかし、施用後速やかな土壌との混和などのアンモニア揮散を抑制できる施用方法(揮散抑制型施用方法)の採用により、アンモニア態窒素の多くを肥料として利用できる。表面施用のまま放置すると、アンモニア態窒素の多く(30~60%)が揮散により失われるが、その量は環境条件に左右されるため予測が難しい。
- 揮散抑制型施用方法を用いることにより、有機態窒素の無機化分(約20%)を含めて、消化液に含まれる窒素の約6割程度を速効性成分として利用できる(図1)。
- 施用された窒素のうち土壌に蓄積される窒素以外の割合に着目すると、土壌に保持された消化液由来のアンモニア態窒素の動きは、硫安等の化学肥料由来成分と大きな差異はない(図2)。作物による窒素吸収量に対する溶脱量の割合が消化液・硫安で同等であることから、化学肥料を消化液で代替しても地下水への負荷は増加しない。
- 消化液を施用した土壌からの亜酸化窒素の発生量に関しては、消化液施用量が多くなるにつれて、施用窒素のうち亜酸化窒素として発生する割合が高まる傾向があるため、過剰施用は避けることが望ましい(図3)。一方、メタンの発生量はほとんどない。
- 消化液に含まれる炭素の一部は安定的な形態で、施用後土壌表面に蓄積される(5年間連用後の蓄積量は施用された炭素の43%)。そのため、消化液の連用は一定の炭素貯留効果があるといえる。
普及のための参考情報
- 普及対象:メタン発酵プラントの運営者、市町村担当者、普及センター、耕種農家等。
- 普及予定地域:メタン発酵プラントがある地域または計画されている地域。
- その他:本成果の冊子「メタン発酵消化液の畑地における液肥利用」を配布している。液肥利用を計画している市町村等から問い合わせがあり、約400部を提供した。また、畜産環境整備機構が作成した消化液の液肥利用のマニュアルに本成果が採用された(発表論文3)。成果の活用にあたっては、作物や土壌の種類、施肥基準などに関して地域特性に従う必要がある。施用量の決定にあたっては、施用畑の土壌診断結果や地域の施肥基準に基づき、カリなどの養分過剰に留意することや1回の施用量を施肥ムラが生じない程度にとどめることに留意する必要がある。
具体的データ
その他
- 中課題名:地域資源を活用したバイオマス循環利用システムの開発
- 中課題番号:220e0
- 予算区分:委託プロ(バイオマス)、交付金
- 研究期間:2007~2012年度
- 研究担当者:中村真人、藤川智紀(東京農業大学)、柚山義人、山岡 賢、折立文子
- 発表論文等:
1)中村ら(2012)日本土壌肥料学雑誌、83(2):139-146
2)中村ら(2012)農業農村工学会資源循環研究部会論文集、8:646-647
3)中村ら(2013)メタン発酵消化液の濃縮・改質による野菜栽培利用マニュアル:5-25