農業水路への外来生物カラドジョウの侵入実態評価法

要約

水路の環境保全に向けて、在来ドジョウに対する外来カラドジョウの個体数の比に基づき、外来生物の侵入実態を評価する手法である。体形から見分け難い両ドジョウの種決定には簡易な判別式を利用でき、広報用パンフレットに従って簡単に行うことができる。

  • キーワード:判別関数式、農業水利施設、生物多様性
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7686
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域、農村基盤研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農業水路の環境を保全するには、生物多様性国家戦略の第3の危機としても謳われているように、外来生物対策にも目を向ける必要がある。これまで水路に生息する外来生物としては、バス類やカワヒバリガイ等の問題が顕在化し、駆除や拡散防止策についての調査研究が進められている。しかし、外来のカラドジョウ(以下,本種)もまた分布を全国的に拡大する傾向にあるにもかかわらず、その実態については明らかにされていない。
我が国在来のドジョウ(図1上)は、水路の生態系を支える主要種となり得るが、環境省版第4次レッドリストに情報不足(DD)として新たに掲載され、今後の動向に留意する必要がある。一方、ドジョウと体形が似る本種(図1下)は東北~四国の23都県で確認され、要注意外来生物として指定されている。
本種は冬場でさえ水路の特定箇所に集中しない等の特徴を持ち、ドジョウよりも大きく移動するため、鳥類の餌にもなりにくい等の可能性がある。 本種は将来的にドジョウの生息を脅かす恐れがあり、生態系の撹乱を導く可能性がある。そこで当研究では、水路内へのカラドジョウの侵入実態について簡易に評価する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 侵入実態の評価には(図2A)、水路内への侵入率としてドジョウに対する本種の個体数の比を用いる(式1)。体形から見分け難い両ドジョウの種決定には、魚体3部位の計測値を用いて決定できる簡易な判別式を利用する(式2)。
  • 評価手順として(図2B)、対象地区における採捕地点を決定後、各地点でドジョウ類を採捕する。個体の体長、尾柄高、最長の(上顎第3)髭長について(図1)、ノギスを利用して0.1mm単位で計測する。判別式に計測値を代入し、計算される判別値Y≦0はドジョウ、Y>0は本種となる(式2)。
  • 判別式の運用においては、広報用パンフレット(図3)に従って初心者でも簡単に行うことができる。パンフレットには、仮に本種の生息が確認された場合、他の場所に放流しないこと等の留意事項が記されている。
  • 全採捕個体の種を決定後、各ドジョウについて個体数を集計し、式1に代入して侵入率を計算する。図4は栃木県内3地区における水路内への侵入率の試算例であり、地区間での侵入実態について比較することが可能となる。他の外来生物についても判別法を開発し、本手法の手順(図2B)に組み込むことにより、同様に侵入実態を評価できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農地・水保全管理等の活動組織、行政部局、学校等の諸機関
  • 普及予定地域:本種の生息確認地をはじめとする各都道府県
  • その他:各地方農政局を通じてパンフレット1,000部を全国の関連行政部局に配布した。研修セミナー等により本成果の普及活動を展開している:北上土地改良情報連絡会(東北農政局)、市民活動・研究発表会(栃木県立博物館)、栃木県内の農地・水活動組織等(平出の田んぼを守る会、メダカの里親の会)。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:小出水規行、森 淳、渡部恵司、竹村武士
  • 発表論文等:1)小出水ら(2012)農工研技報、212:167-175