農業用揚排水機場の管理記録に基づくリスク低減に向けた検討手法

要約

土地改良区等の施設管理者が蓄積する管理記録をもとに、フォルト・ツリーを用いて揚排水機場の突発事故発生のリスク低減に向けた対応策を検討する手法である。本手法により劣化兆候等の記録を蓄積することで、リスク低減策を検討することができる。

  • キーワード:揚排水機場、補修費、管理記録、リスク分析、フォルト・ツリー
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7577
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

全国の基幹的農業用揚排水機場は、2008年度末に、すでに47%(再建設費ベース)が標準耐用年数を超過しており、2018年度末の予測では75%と工種別で最大の超過割合の増加が見込まれている。また、管理職員の高齢化や国と地方の財政状況の悪化などにより、農業水利施設の管理体制の脆弱化が懸念されている。
このような状況に対し、農業用揚排水機場の機能保全の更なる効率化を図るためには、リスク分析を行うことが有効である。土地改良区が日常の操作管理を担う農業用揚排水機場においては、機械設備で一般的に行われるような精緻なリスク分析は困難であるが、リスク情報として活用し得る必要最小限の管理記録が保管されている。このため、土地改良区等の施設管理者により日常的に蓄積される管理記録をもとに、フォルト・ツリーを用いて揚排水機場の突発事故発生のリスク低減に向けた対応策を検討する手法を考案する。

成果の内容・特徴

  • 揚排水機場の点検・整備・補修履歴等の入手可能な管理記録をもとに、フォルト・ツリー(故障等を頂上事象として、その要因等を下位に展開する樹形図)を用いてリスク要因ごとの施設の損傷や運転停止等の発生頻度や損失規模(1件あたりの補修費等の額)の変動傾向を簡略に把握し、リスク低減に向けた対応策を検討する手法である(図1)。
  • 実際の農業用揚排水機場の管理記録(稼働後、30~40年が経過し、大規模なオーバーホール等を実施していない6箇所の機場の補修等の履歴:約7百件)に1.の手法を適用する。経年的に増加している「突発事故」に分類される履歴(図2)のリスク要因ごとの推移から、ポンプ設備の劣化故障と部品不良等の発生頻度と損失規模が顕著に増加(リスクが増大)している傾向が把握できる(図3)。
  • 増大するリスクの低減を図るためには、劣化故障の要因を明らかにし、適切な対策を講じる必要がある。そこで、操作員が日常的に記録している管理日報に、劣化故障の兆候となる可能性が疑われる事象(異常振動、異常音、起動遅れ)や故障等には至らない軽微な誤操作についても記録する様式を提案する(図4)。この様式を活用すれば、施設の故障履歴から要因を把握することが可能となり、施設固有のリスク発生傾向を分析することにより、リスク低減に向けた対策の具体化に資することが期待される。

成果の活用面・留意点

  • 土地改良区等の施設管理者から既存の点検・整備・補修等の記録を借り受けるだけでは、リスク要因を区分し、分析することは困難である。このため、施設管理者への聴き取り調査等を併せて実施することが不可欠である。
  • 基幹的な農業用揚排水機場の各年度の整備補修費の記録は農業水利ストックデータベース等に蓄積されつつある。これらの記録からリスクの変動傾向を把握するためには、ポンプの運転停止の発生頻度や損失規模に関する記録を区分し、整理・保管しておく必要がある。また、リスク低減策の検討には、日常点検時に、劣化兆候となる可能性が疑われる事象を記録しておく必要がある。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:水間啓慈、國枝正
  • 発表論文等:水間ら(2012)農業農村工学会関東支部大会講演会講演要旨:76-79