水路のネットワーク化によるタモロコ個体群再生の予測モデル

要約

魚類生息場としての水路をメッシュ表現し、個体の移動を考慮した個体群再生予測モデルである。落差工等によるネットワークの分断や魚道設置による改善レベルをメッシュ間の移動難易度として与え、複数シナリオ下での結果の定量比較を可能とする。

  • キーワード:魚類個体群、個体群動態、タモロコ、シミュレーション、農業水路
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7668
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域、資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

落差工等による分断水域を魚道の設置によりネットワーク化していくことは、整備事業時に農業水路における環境保全機能の回復・向上を図る上で重要である。膨大な延長を有する農業水路は多数の分断点を必然と抱えており、効果的・効率的にネットワーク化を図る必要がある。そこで、経験的に決定されてきた魚道の設置場所やその整備水準に定量予測の視点を導入するため、複数のネットワーク化シナリオの定量比較を可能とする個体群再生を予測するモデル(以下、ネットワークモデル)を開発する。

成果の内容・特徴

  • ネットワークモデルは、ロジスティック型個体群モデル(以下、個体群モデル)と移動モデル(2010年度成果情報)を融合させることにより開発される(図1A)。対象魚種はタモロコGnathopogon elongatus elongatusで、ネットワークモデルに要するパラメータ値についても推定済みである。
  • 計算機上での水路の表現にはメッシュ分割を用いる(図1B)。各メッシュには隣接メッシュへの移動難易度等属性値が与えられ(表1)、個体毎に計算される移動距離の範囲に在るメッシュ間境界においては、その個体の元位置から近い順に、難易度とその都度発生させる一様乱数の比較により、境界を越える移動の成否が決定される(図1B)。
  • 乱数を利用するネットワークモデル(図1C)では試行毎に結果が異なる。1回の試行では、各個体に位置メッシュ、位置座標、個体属性を付与してその移動距離を計算し、移動後の位置メッシュ、位置座標を決定する。移動モデルは50日間を1単位期間とするためネットワークモデルは1年間を7単位期間と捉えている。1年毎に各メッシュ内の個体数Ni,tを求め、個体群モデルにより再生産後の個体数Ni,t+1を計算する(図1A、C)。ただし、Ni,t+1は整数値として求め、条件として与えられた年数分の計算を終えるまで、逐次Σi Ni,t+1の個体を対象に同様の計算が繰り返される。さらに、以上の計算が与えられた試行回数分だけ繰り返される。
  • 延長3kmの本流水路、同下流端から1km地点に合流する延長1kmの合流水路からなる水路系において、ネットワーク化前は本流水路2km地点と合流部に遡上不可の分断点が在り(各メッシュ延長を100mとするとき、u120=0.00、u210=0.00。表1)、それらの上流にはタモロコの生息がないとする。図2の縦軸は、それら分断点のネットワーク化(以下、改善)時に、改善前に比べて個体数が倍増した試行回数である。例えば、{u120=1.00、u210=0.50}、{u120=0.50、u210=1.00}に改善するという両シナリオを比べると、前者の方がより短期間で個体数の倍増した試行回数が増えている。このような相異なるシナリオ下における本モデルの運用は計算結果の定量比較を可能とする(図2)。

成果の活用面・留意点

  • タモロコは魚類群集の多様性等が指摘されている魚種で指標種として用いている。
  • ネットワークの修復計画時における事前検討のための情報提供に資する。
  • HEP等生息環境の質的評価手法を援用し、現地と比較しつつモデルの修正を進める等により適用性を高めていく必要がある。

具体的データ

 図1~2、表1

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012年度
  • 研究担当者:竹村武士、坂根 勇、嶺田拓也、森 淳、小出水規行、渡部恵司
  • 発表論文等:竹村ら(2011)農業農村工学会論文集、79(6):83-90