住民の経験知・生活知を活かした住民災害リスク認識醸成手法

要約

住民の経験知・生活知に基づく災害リスク認識の観点を評価視点とする4つのステップで手作り防災マップを作成することにより、住民の「我がこと」観を踏まえた防災計画の実効性を支える災害リスク認識の醸成が可能となる。

  • キーワード:我がこと、災害リスク認識、経験知・生活知、手作り防災マップ
  • 担当:農村防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7534
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

科学的知見から策定された防災計画は、住民の経験知や生活知を踏まえた住民感覚の災害リスク情報が盛り込まれていないため住民の関心や理解を得られにくく、地域の自主的な防災・減災活動に結びついていない状況が多く指摘されている。農村防災・減災計画の実効性を得るためには、住民が地域に起こりうる災害リスクを「我がこと」として認知する心構えを醸成しておくことが重要となる。災害リスクの「我がこと」認識を醸成するために、住民の経験知や生活知に基づいて住民自ら災害リスク箇所を選り出す手作り防災マップを作成することによる災害リスク認識醸成の手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 土砂災害警戒区域等を18カ所有する山梨県甲府市帯那地区(総戸数295戸、総農地面積70ha)では、県作成の『土砂災害警戒区域等マップ』を認知している住民は4割程度に過ぎない。さらに彼らのマップに対する感想は、1)実感がわかない、2)危険の根拠がわからない、3)活用の仕方がわからない、4)現実味がない等と評価しており、マップが住民の防災・減災活動へのインセンティブとして機能しづらい状況にある。
  • 台風による豪雨を経験した住民に豪雨災害リスクに対する関心を聴取すると、危険な場所、避難の契機、災害の徴候、避難の困難性に強く関心を向ける傾向が捉えられ、その関心の聴取した内容から思考の観点を整理すると、1)自分の家屋を基点にして考える、2)発生要因(傾斜・荒れ地・河川、水路等)からを考える、3)災害発生時の避難行動を考える、の3つの観点で整理することが出来る(図1)。
  • 住民が地域に起こりうる災害リスクを「我がこと」として認識するためには、住民の災害リスクに対する関心傾向の3つの観点を評価視点として、<発生要因から基盤環境に潜むリスク>、<避難行動から道路、施設配置のアクセス性>、<宅地配置からリスクの身近さ>を評価しリスク箇所を抽出する手作り防災マップを作成することが有効である。
  • 図1の3つの観点を評価視点として組み入れて、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップ、第4ステップ、の4つのステップで環境点検WS(ワークショップ)を行うことにより手作り防災マップを作成する(図2)。
  • 事例地区での試行では、手作り防災マップを作成する過程での第2から第3ステップの評価作業を繰り返すことで、手作り防災マップ(図3)を作成することができ、WS参加者の災害リスクに対する「我がこと」認識を強く醸成することができている。

成果の活用面・留意点

  • 既に防災・減災計画を策定している地域では計画の実効性を向上するための運用支援として、これから策定する地域では住民参加による計画策定支援として有用な技術である。
  • 「手作り防災マップ」は、科学的データに裏付けられたハザードマップ等を補強する資料であることに留意する必要がある。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:重岡徹、山本徳司、福本昌人
  • 発表論文等:重岡ら(2011)第59回日本農村生活研究大会要旨:39-40