豪雨時のため池の決壊危険度算定システム

要約

豪雨によりため池が決壊する危険度を算定するシステムであり、最適な減災対策計画の策定に利用できる。堤体諸元や過去の降雨データを入力値として、洪水による貯水位上昇と堤体のすべり安定性を同時に解析することにより、決壊する降雨量を推定できる。

  • キーワード:ため池、豪雨、決壊、すべり、越流
  • 担当:農村防災・減災・農業水利施設防災
  • 代表連絡先:電話 029-838-7574
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農業用ため池は全国に21万箇所あるといわれており、このうち約2,000箇所が豪雨時に決壊の恐れが高く早急な対策が必要であるとされている。適切な減災対策を実施していくためには、豪雨時のため池の危険度を精度良く算定することが必要不可欠である。流出解析、飽和不飽和浸透流解析、すべり安定解析を組み合わせた解析システムを用いることにより、豪雨時の越流およびすべりに伴うため池の決壊危険度を算定することができる。

成果の内容・特徴

  • 流出解析、飽和不飽和浸透流解析、すべり安定解析を組み合わせた解析システムにより、豪雨時の越流およびすべりに伴うため池が決壊する降雨量を推定できる(図1)。
  • 本解析システムに必要な入力データは、1)ため池台帳に記載の堤体諸元や集水面積、2)堤体土のせん断強度、密度、透水係数(平成23年成果情報「ため池等の盛土斜面の簡易な現位置せん断強度推定手法」を参照)、3)確率降雨を算定するための既往の降雨データ、である。これらの入力は、図2に示すような入力画面で簡単に行うことができる。
  • 解析システムでは、以下の手順で計算を行っている。1)過去の降雨データから確率降雨量を算定する。2)流出解析により、貯留関数法を用いて集水域からの流入と洪水吐の放流を考慮して貯水位を算出する。3)飽和不飽和浸透流解析により、貯水位上昇と降雨浸透を考慮して、堤体内の浸透状態を計算する。4)すべり安定解析により、浸透に伴う強度低下と重量増加を考慮してすべり安全率を算定する。5)確率降雨量を入力値として、自動的に2)~4)の逐次計算を行い、堤体越流とすべり破壊(安全率<1.0)が発生する降雨量を個別に算定する。6)この2つの降雨量のうち、小さい方を決壊する降雨量とする。
  • 図3は、72時間で217mmの降雨(120年に一回の豪雨に相当)で若干の越流を伴いながらすべり崩壊が発生して決壊寸前の状態となったため池である。この事例に対して照査を行った結果、217mmの降雨で、水深約2cmの堤体越流が先に発生し、その後すべり破壊が発生すると予測できており、実際の現象と良い整合性があるといえる(図4(a))。
  • 図4(b)は、図1の解析フローによって算出した、確率降雨に対する貯水位の最大値とすべり安全率の最小値の関係を示している。図から、212mmの降雨(92.5年に一回の豪雨)で堤体越流が発生し、219mmの降雨(111年に一回の豪雨)ですべり崩壊が発生すると判定できる。工学的には堤体越流が決壊に直結するという安全側の判断を行うため、92.5年に一回発生する212mmの降雨で決壊すると判定できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ため池豪雨対策に係わる国・地方公共団体、コンサルタントの設計技術者
  • 普及予定地域・普及予定箇所数:全国のため池・年間数箇所
  • 本システムでは、パイピング等の局所破壊は考慮していないため、漏水が多いため池では別途パイピングの検討が必要である。また、本システムとため池防災情報システムの氾濫解析を併用することにより、ため池下流域のリスク評価が可能である。また、貯水位計測を行うことにより、リアルタイムで危険度を評価することも可能である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:災害リスクを考慮した農業水利施設の長期安全対策技術の開発
  • 中課題番号:412b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:堀 俊和、松島健一、上野和広、有吉 充、毛利栄征
  • 発表論文等:
    1)堀ら(2010)農業農村工学会論文集、270:57-67
    2)堀ら(2011)地盤工学会誌、59:10-13