既設の樋管式分水口に付設する無動力ポンプの分水性能とその利用法

要約

用水路の既設の樋管式分水口に付設することによって用水路内水位よりも高い標高に無動力で分水することが可能になる。口径200 mm程度の分水口を利用する場合、水路内外水位差が0.5-0.9 m程度あれば100-350 L/minを1.0 m程度揚水できる。

  • キーワード:小水力、同軸メカニカルポンプ、無動力、樋管式分水口
  • 担当:基盤的地域資源管理・自然エネルギー活用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7565
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域、資源循環工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年の農地をめぐる土地利用や水環境・地下水位条件の変化により、既設水路から目的とする農地に所定の用水量を揚水できなくなることがある。 無動力ポンプは、大流量・高揚程の揚水には向かないが、その揚水原理の簡易さと化石燃料を使用しない環境保全的な特性を有している。本研究では、無動力ポンプの一つである同軸メカニカルポンプを樋管式分水口に導入して、大規模な施設改修を伴わずに、対処療法的かつ持続的に利用できる自然エネルギー活用技術の開発に取り組んだ。

成果の内容・特徴

  • 同軸メカニカルポンプ(以下MPと称する。図1- b)は、ポンプを通過する水流によって水車と一体化したインペラ(揚水ポンプの羽根)を回転させ、ポンプを通過する水の一部を揚水する方式の遠心型ポンプである。ポンプを通過する水流以外の動力源を一切必要としない。
  • MPの付設位置として、水路側壁からパイプで分水する既設の樋管式分水口のパイプ出口にMPを直結する(図1- a)。支線水路の分水マス等を活用することで大規模な施設改修を伴わずに簡単な施工で取り付けられる。この設置方法であれば用水路本線の通水能力に支障を与えないだけでなく、用水路上流から浮遊してくるゴミの巻き込みなど、MPに対する悪影響も回避できる。
  • 支線水路への分水量は幹線水路と支線水路の水位差ΔHで決まるオリフィスの性能曲線で表される(図2)。MPの揚水量は、支線水路への分水量の一部を振替えたものに相当する。MPからの揚水は用水路内水位よりも高い標高の圃場に分水し、MPを通過する水は従来の支線への分水となる(図1- c)。ポンプ流入孔口径が200 mm、揚水管口径が80 mmの場合、全分水量(QT)に占める揚水量(q)の割合(q/QT)は、約10%、MP装着時と無装着時の流量の割合(QT /QT0)は約60%である。
  • MPの揚水性能は、図3のポンプ性能曲線で表される(ポンプ流入孔口径200 mm、揚水管口径80 mmの場合)。ΔH(水路内外水位差)と下流水位出口の条件(外水位と出口形状)が現場の条件に適合する性能曲線を使用すれば、MPの揚水量と揚程を算出できる。
  • 口径200 mm程度の分水口を利用する場合に、ΔHが0.5-0.9 mあれば100-350 L/minを用水路内水位よりも1.0 m程度高い圃場に灌漑することが可能となる。これは1日の用水需要を5 mm/dayとすると3~5 ha程度へ灌漑できる量に相当する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:小水力開発、水車や分水工の設計、水利用機能診断に携わる農業水利技術者、土地改良区職員、一般農家
  • 普及予定地域:更新事業の予定地域、水田汎用化の検討地域、海外支援対象地域
  • その他:手引き配布、受託研究、モデル事業、展示会等を通じて有用性をアピールする。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:自然エネルギー及び地域資源の利活用技術と保全管理手法の開発
  • 中課題番号:420c0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:樽屋啓之、中田 達、後藤眞宏、上田達己、浪平 篤、廣瀬裕一
  • 発表論文等:農業水利施設における未利用小規模水力に関する研究成果の活用の手引き(2012、実用技術「未利用水力」)