過疎高齢化地域における放棄ため池の特性

要約

過疎高齢化地域では、かんがい利用されているため池は動植物の生息場所として重要であるが、過疎高齢地化が進行する集落では水面面積1a以下の多くが放棄され、小規模なため池ほど耕作放棄や人口減少の影響を受けやすい。

  • キーワード:地形図、止水域、アンケート、農林業センサス、地域資源
  • 担当:基盤的地域資源管理・自然エネルギー活用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7668
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

かんがい用途のため池は、動植物の生息場所としても機能しており、地域資源として重要である。しかし、ため池の分布や利用実態を特に過疎高齢化地域において高精度で明らかにした例は少ない。そこで、過疎市町村に指定され、ため池に絶滅危惧の動植物が多く生息する石川県珠洲市を事例に、様々な方法で事例地区内のすべてのため池を抽出し、ため池の規模、分布を明らかにするとともに、ため池管理者に対するアンケートにより、集落単位でのため池利用状況を把握し、放棄されるため池の特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 国土地理院発行の1/25,000地形図に記載されている珠洲市内のため池と思われる止水域(開放水面)は147箇所である。これに対し、空中写真や2時期の1/5,000都市計画図、住宅地図、現地踏査等からため池と思われる止水域を全て抽出すると、全804箇所を数えることができる。すなわち、1/25,000地形図では、全止水域の18%しか把握することができない(図1)。水面面積100a以上の止水域は1/25,000地形図でも抽出されたが、全止水域の34%を占め、全市域に分布する1a以下の止水域は全く抽出されない(図1)。
  • 抽出された止水域に対する管理者アンケートの回答から、過去や現在において、かんがい用途のため池は318箇所である。このうち、現在も利用が継続されているため池は172箇所であり、かんがい用途が無くなり放棄されたため池は146箇所(45.1%)である。利用が継続されているため池の平均水面面積55.6aと比較して、放棄されたため池の平均面積は5.9aと小さく(t-test、p>0.01)、特に回答数の約20%を占める面積1a以下のため池では78.7%が放棄されている(図2)。
  • 集落内にため池が6箇所以上存在し、アンケート回収率が高い8集落で、耕作放棄と放棄ため池との関係をみると、集落内の水田の耕作放棄率が高まるとため池も放棄されやすい傾向を示す(図3)。
  • 利用されているため池1箇所あたりの農家人口はほぼ10人以上であり、ため池あたりの農家人口が少ない集落では放棄されるため池が増える。また、受益面積も小さく、利用者減少の影響を受けやすい小規模のため池は、放棄されやすいことがわかる(表1)。
    そのため、農家の高齢化率(65歳以上の農家男女率)が高い(全集落平均35.0%)地域では、過疎高齢化の進行に伴い、小規模なため池から放棄されていく。

成果の活用面・留意点

  • 上記2.で扱ったため池318箇所には、珪藻土採掘に伴って出現した窪地に貯まった水たまり等の一時的あるいは補助的なかんがい利用の開放水面も含まれる。
  • 利水に伴う周期的な水位変動などがため池でなくなると希少沈水植物が減少する(2005年度農業工学研究所成果情報,25-26.)ことを既に報告しており、特に絶滅危惧種などが生息する生物保全上重要な放棄ため池では、継続的な維持管理が必要である。
  • 過疎高齢化地域の把握されにくい小規模なため池の分布や利用状況が明らかになれば、地域資源の適切な管理に向けて、県や市町村の担当者に有益な情報を提供できる。

具体的データ

 図1~3、表1

その他

  • 中課題名:自然エネルギー及び地域資源の利活用技術と保全管理手法の開発
  • 中課題番号:420c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年
  • 研究担当者:嶺田拓也、竹村武士、坂根 勇
  • 発表論文等:嶺田ら(2012)農村計画学会誌、30(論文特集号):309-314