耕起した放射能汚染水田を除染するための水による土壌撹拌・除去技術

要約

代かき機に装着したノズルから代かき濁水をバキューマにより吸引し、放射性セシウムと結合した土粒子の細粒分を水田外で分離・回収する技術である。代かき深を調整することで耕起、未耕起に関わらず除染を行うことができる。

  • キーワード:放射能汚染水田土壌、放射性セシウム、耕起、除染、代かき
  • 担当:放射能対策技術・農地除染
  • 代表連絡先:電話 029-838-7200
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域、水利工学研究領域、農地工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東日本大震災に伴う原子力発電所事故により飛散した134Csと137Cs(以下、放射性Cs)は農地土壌に吸着されており、農作業時の被曝低減と生産された米の安全性確保は喫緊の課題である。農林水産省は、表土削り取り、水による土壌撹拌・除去、反転耕、深耕などの除染技術を開発しているが、フォールアウト後に耕起作業等がなされ作土層全域に放射性Csが拡散している水田では表土削り取りの効果は小さく、作土層が薄い場合反転耕が使えないなど、既耕地での除染技術は確立されていない。このため、水による土壌撹拌・除去技術を高度化し、耕起された水田でも実施可能な放射性Csを除去する手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 代かき機に装着した3列ノズルから代かき濁水をバキューマにより吸引し、濁水中の懸濁物質を沈殿させることなく水田外へ導き、分級・脱水システムによって懸濁物質の粒径分級を行う(図1)。吸引部は径50mm(先端100mm)の塩ビ管からなる(図2)。
  • 分級・脱水システムは、濁水回収システムからの濁水→原水槽→サイクロン(遠心分離)→ハイメッシュセパレータ→貯留槽→濁水処理(凝集剤添加)→フィルタープレス→脱水ケーキ作成の順で運用する(図1)。濁水回収システムは10tトラックに積載可能である。
  • 分級によって除去する粒径(細粒分)は現地土壌試料の粒度毎の重量分布率と放射性Cs濃度の分布率から求める(図3)。粗粒分は圃場に戻す(図1)。脱水の過程で発生する上澄み液の放射性Cs濃度は1Bq/L未満である。
  • フォールアウト後に耕起した圃場に設定した試験区(3m×15m)においては、全体の80%以上の放射性Csが粒径0.075mm未満の細粒分に結合している(図3)。
  • 粗粒・細粒分岐粒径0.075mm、代かき中の湛水深100mm(定水位)、代かき深200mm、トラクター速度2.6m/分の条件で、除染前の土壌中の放射性Cs濃度(初期濃度)2,970Bq/kgが、1回の除染作業で1,760Bq/kgまで減少、2回目で968Bq/kgまで減少する。9回目には602Bq/kgに減少するが(濃度低減率80%、図4)、3回目以降の減少率は低い。上記条件での10aあたりの吸引作業時間は約4時間(フィルタープレス時間含めず)である。
  • 圃場の作土層厚200mmに対し、1回の除染の平均排泥厚は約4.7mmである。除染を重ねる度に作土層下層の非汚染土壌が混和し、吸引される懸濁物質中に占める割合が大きくなるため、1回あたりの除染率は低下する(図4)。放射性Cs濃度低減率80%のうち混和による低減率(希釈効果)は約50%、分級による低減率は約30%である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:水田除染を行う事業者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:汚染状況重点調査地域(104市町村)。
  • その他:予め、圃場土壌の粒度区分毎の重量分布と放射性Csの放射能分布を求め、最適な除染回数を決定する。ノズル・バキューマ間の距離は最大150m程度。100mm以上の湛水深で吸引力が弱いと、取り残した土壌の細粒分が水田内で分級され、表層に放射性Csに富む細粒分が集まることがある。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:高濃度汚染土壌等の除染技術の開発と農地土壌からの放射性物質の流出実態の解明
  • 中課題番号:510a0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(ホットスポット水田)
  • 研究期間:2012年度
  • 研究担当者:今泉眞之、奥島修二、塩野隆弘、石田 聡、吉本周平、小倉 力、中 達雄、鎌田雅美(DOWAエコ)、千田善秋(DOWAエコ)、友口 勝(DOWAエコ)
  • 発表論文等:今泉ら(2012)「農地土壌に含まれる汚染物質の除去方法および除去装置」 特願2012-115080