国土強靱化計画に資するライフライン整備とソーシャルキャピタルの効果評価

要約

ライフライン(生活基盤)整備やソーシャルキャピタルの向上が農村地域の住民満足度の向上に寄与する効果を、定量的かつ個人レベルと地域レベルに区分して評価する手法である。これにより国土強靱化計画におけるハードとソフト施策の評価が可能となる。

  • キーワード:住民満足度、ライフライン整備、ソーシャルキャピタル、国土強靱化計画
  • 担当:農村防災・減災・農業水利施設防災
  • 代表連絡先:電話 029-838-7667
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

国土強靱化基本法案の制定を受けて、都道府県や市町村においても地域計画の策定が進められつつある。地域住民に真に支持される計画を策定するため、計画に盛り込まれるライフライン(生活基盤)の整備や地域コミュニティ強化施策のようなハード及びソフト施策の効果を定量的に示す必要がある。本手法は、地域住民の満足度に対する影響度を個人レベルの要因と地域レベルの要因(ライフラインの整備やソーシャルキャピタルの向上)に区分して定量化するものであり(図1)、これまで満足度による定量的な評価が困難であった強靱化計画のハード及びソフト施策の効果評価を目指したものである。

成果の内容・特徴

  • 個人レベルの評価(順序プロビット分析)では、地域住民の生活満足度に対する所得等の個人属性の影響と、各市町村で異なる潜在要因(地域ダミー)の影響を特定する(表1)。Y県の適用事例では、都道府県単位の地域潜在要因の影響が無視できるとする先行研究と異なる結果(10市町村の地域ダミーのt-値が有意)が得られ、個人所得に直接影響する施策のみでなく、広域エリアを対象とした地域政策の有効性が明らかとなる。
  • 地域レベルの評価(共分散構造分析及びパス解析)では、住民満足度の地域潜在要因に対し、ライフラインの整備(農村生活道路、公園、上・下水道等)、コミュニティ内の住民相互のネットワークや住民間の信頼等からなるソーシャルキャピタル、雇用機会や地域全体の生産活動による地域経済活力等の影響を定量化する(図2)。これをふまえて、都市化の程度(人口密度)のような共通要因を想定することにより、地域要因間相互の直接・間接的な因果関係をモデル化する(図3)。
  • 地域レベルの因果関係モデル(図3)の影響度(赤色数値)から、ライフライン整備、ソーシャルキャピタル及び地域経済活力の1ポイントの向上は、住民満足度をそれぞれ0.27、0.36、0.27(=0.23-0.72×0.54×0.36+0.72×0.93×0.27)ポイント向上させる。同じ満足度の向上には、ライフライン整備の1ポイント向上(3.4千円/haに相当)が住民平均所得を6.4~8.5千円/人ほど増加させて地域経済活力を1ポイント高めることと同等の効果を有することが試算できる。本手法を地域計画作成時に用いることにより、住民説明の資料や計画指針作りの資料として活用できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国・地方自治体の行政担当者
  • 普及予定地域・普及予定数等:国土強靱化計画等を策定予定の都道府県・市町村
  • その他:本成果は、2006年度のY県の全市町村を対象にした調査に基づく。上記で例示した効果評価のときには、分析のもとデータである整備単価や地域平均所得の数値を用いる必要がある。また、計画策定での活用には、最新の調査データの収集が望ましい。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:災害リスクを考慮した農業水利施設の長期安全対策技術の開発
  • 中課題整理番号:412b0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:國光洋二、中嶋勇、合崎英男
  • 発表論文等:Kunimitsu(2014)Journal of Economic Policy Studies(印刷中)