沿岸部農地に浸水した津波の減勢に対する排水路の効果

要約

海岸線と平行に配置した排水路が浸水した津波の流速を落とす効果を水理模型実験で評価する。本実験の条件では、津波波高9mでは16%程度流速が落ち、陸側に側壁を設けることでさらに4~10%程度流速を減じる効果を高められる。

  • キーワード:津波、浸水被害、減災対策、河口低平農地、水理模型実験
  • 担当:農村防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7568
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震津波では、高盛土道路や運河といった構造物が背後地を遡上する津波を減勢させたことが現地調査などから明らかになっている。また、津波減災レベル(レベル2)の津波では背後地への浸水を許容するため、将来起こり得る巨大津波災害において、浸水した津波を減勢させることが減災対策の1つとして認識されつつある。本研究では、沿岸部の農業地帯に津波の減勢機能をもたせた排水路を整備した場合にどの程度の効果があるのかを水理模型実験で評価する。

成果の内容・特徴

  • 実験には、スルースタイプの津波発生ゲートを有する幅2m×高さ3m×全長67.5mの津波実験施設(図1)を用いる。津波実験施設の観測部に前浜から農地、内陸部をモデル化した地形に海岸堤防と排水路を設置する(図2)。ここで、模型はフルード相似則に基づく1/25スケールとする。
  • 海岸堤防は、堤高を10mとし東日本大震災の復興事業で採用された断面形状とする。排水路は、潮受け水路をモデルに幅を11.5m、深さを模型で再現可能な6.25mとする。また、排水路には、浸水した津波の減勢を高めるため高さ1.5mの側壁を排水路の海側、陸側いずれかに設置し、その効果を検証する。
  • 前浜に達する前の津波波高が10m、9.5mおよび9mとなる水理条件を設定する。なお、本実験は排水路の減勢効果を検証するため、海岸堤防到達直前に津波を砕波させ、安定した越流状態を維持する。この条件では、津波は海岸堤防の反射作用により海側水位が上昇し、それぞれ5.5m、4.8mおよび4.2mの越流水深で海岸堤防を越流する。海岸堤防を越流した津波は、堤防裏側法面および堤防背後地を射流で流下して内陸部に達し、内陸部からの戻り流れによって生じた跳水が最終的に海岸堤防に到達する。
  • 津波波高10mでは、排水路の有無で背後地の流速に変化は見られないが、津波波高9mでは16%程度流速が落ちる(図3)。実験の結果、排水路の掘削だけで浸水津波を減勢させるには排水路直前の流速に閾値が存在することが推察され、本実験で再現した排水路では14m/sである。
  • 排水路側壁の位置を変えた場合の流況パターンの模式図を図4に示す。排水路側壁を海側に設置した場合は、水路壁に衝突した水塊が排水路上部を滑るように流れ、側壁を設けない場合と流速に違いはなく減勢効果は得られない。一方、水路壁を陸側に設けた場合は、排水路内部に強制的に水が潜る形となり、排水路の掘削に加えて4~10%程度の流速の減少が認められ、排水路から離れた場所でもそれが維持される。

成果の活用面・留意点

  • ここで示した数値は本実験の条件でのものであり、津波減勢効果が得られる流速の閾値は排水路幅や深さで変化すると考えられる。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題整理番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:桐博英、中矢哲郎、丹治肇、安瀬地一作
  • 発表論文等:桐ら(2014)土木学会論文集B1(水工学)70(4): I_1561-I_1566