既設農業用水路へ設置する揚水水車の揚水性能と導入条件

要約

揚水水車の揚水性能は、使用する筒の設置角度や流速等の水理条件および揚水水車の水受板に対する水没深から推定できる。また、水路幅とほぼ同程度の水車幅を持つ揚水水車を設置しても、揚水水車設置による堰上げの影響は軽微で溢水等の危険はない。

  • キーワード:揚水灌漑、水力エネルギー、伝統的水利技術
  • 担当:基盤的地域資源管理・自然エネルギー活用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7614
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

灌漑用揚水水車(以下揚水水車)は、水力を用いて揚水する伝統的水利技術の一つである。自然エネルギーの利用が求められる中で、水力を利用する揚水水車は有益であるが、揚水水車の揚水性能は十分に解明されていない。そこで揚水水車の導入の基準となり得る水理条件と揚水性能について、実規模の水理模型実験(図1)により明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本成果で扱う揚水水車は、全国調査の結果をもとに、最も標準的で利用頻度が大きい直径2.0m で塩ビ管の筒をもった揚水水車である(図1)。模型実験に用いた筒は、塩ビ管VU75タイプ、長さが400mm(容積2.16L)である。筒の設置角度によって揚水量が変化するが、25°から55°まで5°ごとに比較した揚水性能試験(図2)から、35°~50°で筒を水車に設置することが望ましい。
  • 水路水深(=水没深+150mm)と流速から導かれるフルード数(=ν/√gh、ν=流速;g=重力加速度;h=水深)を利用し、異なる水没深(図1)間の水車が受ける流れの力と揚 水量の関係を比較する(図3)。揚水量は、筒の個数に拘わらず水没深が深くなると増加する。他方、フルード数の増加に伴って揚水量も増加するが、特にフルード数が0.5より大きい条件では、揚水量の増加が鈍ったり減少する。これは、水車の回転が速すぎるために、筒の水没時間が短くなり水を十分に汲まなくなることや、汲み上げた水を樋 に十分に落水できないためである。これらのことから、フルード数がおおむね0.5以下の農業用水路で利用することが望ましい。
  • 筒を8個と16個それぞれ設置した条件で揚水量を比較した結果、水没深で異なるがフルード数が0.2~0.4以下の水理条件では、筒が16個の揚水量が8個の揚水量と同等か少ないことから、筒の個数を多くしないことが望ましい。
  • 水没深や筒の数を増減させたときのおおよその揚水可能水田面積を求めることができる(図3)。例えば、導入水路のフルード数が0.3、水没深400mmの条件では、筒16個で利用する場合、日減水深が50mmだと40a前後の水田が必要とする用水を灌漑できる。この条件での揚水量は8~9m3/hである。
  • 土地改良事業計画設計基準「水路工」で定義される余裕高の算出式から得られる本実験条件での余裕高と実験で計測された堰上げ水深(水没深400mmの場合、図4)の関係から、既存の水路に揚水水車を設置しても堰上げ水深は最大で約30mmと軽微で溢水等の危険なく導入できる。

成果の活用面・留意点

    • 本実験に加えて様々な水車設計諸元も検討しているが、筒の口径や長さが異なると揚水量の多寡に影響を及ぼすことにも留意する必要がある。
    • 揚水水車を利用する際には、事前に水路管理者と協議する必要がある。

具体的データ

図1~4

その他

    • 中課題名:自然エネルギー及び地域資源の利活用技術と保全管理手法の開発
    • 中課題整理番号:420c0
    • 予算区分:交付金
    • 研究期間:2012~2013年度
    • 研究担当者:廣瀬裕一、後藤眞宏、上田達己、浪平篤
    • 発表論文等:1)廣瀬(2014)農村工学研究所所報、53:1-61