農業用ため池底質から水中への放射性セシウム回帰速度の評価手法

要約

ため池などで採取した底質の未攪乱コアサンプルを用いた室内試験により、底質から水中への放射性Csの回帰量を推定する手法である。回帰速度を算出することで、異なる底質ごとによる比較を可能とし、回帰によるリスク評価に使用できる。

  • キーワード:放射性セシウム、ため池底質、水中への回帰速度、未攪乱コア
  • 担当:放射能対策技術・農地除染
  • 代表連絡先:電話 029-838-7546
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、環境中に放射性セシウム(Cs)が放出された。放出された放射性Cs が一部の環境に降り注ぎ、農業用ため池底質において放射性Cs濃度の高い地域が見られるようになった。
底質から水中への放射性Csの回帰により用水と共に放射性Csがため池外に拡散することがあるならば、下流側での用水利用等にともなうリスクを高める危険性がある。なお、底質から水中への回帰の可能性は底質の性状などにより異なることが考えられるため、底質ごとに評価する必要がある。そこで、放射性Cs を含む底質の未攪乱コアを使用して、放射性Cs濃度の回帰速度を測定する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 試験中に採取するサンプルの放射性Cs濃度が非常に低い場合にも、定量下限値0.1 BqL-1を確保するために1回のサンプリングで2L程度の試験水を確保する。例えば、必要量の試験水を確保可能な大きさのコアサンプルを1本用意するか、同条件のコアサンプルを複数本並列で試験し、複数本から採取したサンプルを混合することでサンプル量を確保する(図1)。試験時は、コア採取時に充填された現地の湖水をそのまま使用する。試験開始時のコアサンプル内の水中放射性Cs濃度を可能な限り低減させるため、プルシアンブルーシート(PBシート)を浸漬させ、対流のために僅かな曝気を施した上で1週間の前処理を施す。
  • 試験期間中の水中放射性Cs濃度の変化と底質上の水の体積から期間中の放射性Csの回帰量を算出する。試験期間中に底質表面から水中に回帰した放射性Cs量、コアサンプル内の底質表面積、試験期間から、試験期間中の回帰速度が一定であると仮定して水中への放射性Csの回帰速度を算出する。試験期間は28日としたが、これは究極BODという指標が28日間の試験により生分解性有機物量を評価することに基づく。
  • 上記の手順により、底質表面(0-2cm)の放射性Cs濃度が約200k Bq kg-1 であったため池で採取した底質Aに対する回帰試験の結果では、経時的な水中放射性Cs濃度の上昇を確認でき(図2)、それをもとに放射性Cs回帰量を算出できる(図3)。算出した回帰量をもとに134Cs+137Cs回帰速度は33.1 Bq m-2 d-1と評価できる。
  • 同様に底質表面(0-2cm)の放射性Cs濃度が約15 kBq kg-1であったため池で採取した底質Bに対して、134Cs+137Cs回帰速度は6.7 Bq m-2 d-1と評価できる(表1)。本手法を利用することにより、様々な底質からの放射性Cs回帰量を評価することが可能である。

成果の活用面・留意点

  • 134Csは半減期が短く、今後の定量測定が困難になるため、これらのデータとの比較の際には137Cs 回帰速度のみで評価・比較することとし、134Cs は確認のために使用する。
  • 結果の整理にあたっては、回帰速度は底質の性状(土性や有機物含量など)や湖水の水質(塩類濃度やpHなど)の影響を受けることを考慮する必要がある。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:高濃度汚染土壌等の除染技術の開発と農地土壌からの放射性物質の流出実態の解明
  • 中課題整理番号:510a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2013 年度
  • 研究担当者:濵田康治、久保田富次郎、人見忠良、白谷栄作
  • 発表論文等:1)濵田ら(2013)農業農村工学会誌81(9):23-26