原発事故後のため池底質における放射性セシウムの分布状況と粒径別の分布

要約

ため池底質中の放射性Cs濃度は、深い地点で高く、底質表層にて高いが、分布の傾向は地点毎に異なる。底質中の2μm以下の画分の放射性Cs濃度は、分画前の試料の1.5倍以下で、底質の巻き上がりによって水の放射性Cs濃度が10Bq/lを超える可能性は低い。

  • キーワード:底泥、コアサンプリング、平面分布、鉛直分布、粒径別分画
  • 担当:放射能対策技術・農地除染
  • 代表連絡先:電話 029-838-7564
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島県内のため池では、土粒子に付着した放射性セシウム(以下、放射性Cs)が底質に堆積している。ため池底質中の放射性Csの分布については報告例が少なく、分布状況を把握することは重要である。また、底質中の粒径の小さい土粒子は巻き上がりやすいため、土粒子の粒径別の放射性Cs濃度を把握することは重要である。そこで、平野部に位置し、水深が浅く底面が平坦なため池Aと、山間部に位置し、水深が深く底面の起伏の大きいため池Bを対象として、底質における放射性Cs濃度の分布状況を分析する。

成果の内容・特徴

  • 4cm径のコアサンプラーにより底質表層12cmを地点毎に5回採取し、4試料はそれぞれ2等分し、深さ0-6cmで採取した試料、深さ6-12cmで採取した試料、をそれぞれ混合する(6cm試料)。残る1つの試料は深さ2cm間隔で6等分する(2cm試料)。分画には、最深部の表層0-6cmにおける炉乾後の試料を用いる。底質の巻き上がりの状況を再現するため、分画において有機物分解剤と分散剤は使用しない。
  • ため池Aでは、南西の流入の近く(A1)と水深が深い中央(A4)で放射性Cs濃度が高い(図1左)。底質の鉛直方向の放射性Cs濃度は、表層ほど高く、深くなるほど低くなる傾向を示し、7地点の平均では放射性Csの86%が表層4cmに、90%が表層6cmに存在している(図2上段)。
  • ため池Bでは、深い地点(B4、B6、B7)において放射性Cs濃度が高い(図1右)。流入口に近い西側の浅い地点(B1、B2)では6cm 以深まで放射性Cs が存在する。深い地点では、表層に高い放射性Csが分布している地点(B4)と、6cm 以深まで放射性Csが存在する地点(B6、B7)があり、鉛直方向の放射性Csの分布傾向は地点によって異なる(図1右と図2下段)。
  • 底質のうち、粘土に相当する2μm以下の画分の放射性Cs濃度は、ため池Aで3,000Bq/kg、ため池Bで6,400Bq/kg であり(図3)、ため池貯留水の放射性Csが10Bq/l(飲料水中の基準値)となる場合のSS濃度はため池A で3,300mg/l、ため池Bで1,600mg/lと求められる。この値は湖沼の強風時のSS濃度が130mg/lといった報告例と比較すると非常に高く、底質の巻き上がりによって貯留水の放射性Cs濃度が10Bq/lまで上昇する可能性は低い。

成果の活用面・留意点

  • ため池底質における放射性Csの分布傾向を把握する際の参考資料となる。
  • ため池底質では、放射性Csが空間的に不均一に存在していることを示す結果であり、底質採取の際には複数地点、複数回のサンプリングが望ましい。
  • 放射性Csの値は、調査時の2012年6月下旬の値で、134Csと137Csの合計である。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:高濃度汚染土壌等の除染技術の開発と農地土壌からの放射性物質の流出実態の解明
  • 中課題整理番号:510a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2013 年度
  • 研究担当者:吉永育生、島崎昌彦、常住直人、高木強治
  • 発表論文等:吉永ら(2013)農業農村工学会誌、81(9):19-22