地形制約等に応えられる地震・津波に粘り強い海岸堤防の構築技術

要約

堤防の被覆工と天端工を盛土と一体化した堤防構造により、従来型式堤防に比べ津波衝突時の揚圧力や越流時の揚力・抗力に対して被覆工を引き剥がれにくくできる。東日本大震災級の巨大津波に対して高い耐久性が期待でき、地形制約の問題にも対応できる。

  • キーワード:東日本大震災、巨大津波、海岸堤防、減災技術、被覆ブロック
  • 担当:農村防災・減災・農業水利施設防災
  • 代表連絡先:電話 029-838-7570
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東日本大震災級の巨大津波に対して背後地の被害を軽減するためには、強靱な海岸堤防を構築して、津波のエネルギーを減勢し、浸水域を軽減させる必要がある。このため、本研究では、巨大津波を発生させる水理実験装置を用いて堤防構造の耐久性試験を行い、従来型式の構造的弱点を大幅に改善した強靱な耐津波化堤防を開発する。

成果の内容・特徴

  • 図1(a)に、被災調査及び破堤実験結果に基づく従来型式堤防の破壊要因を示す。(ア)盛土上に設置された被覆ブロックは、揚力や抗力等の働きによって容易に引き剥がれる。(イ)堤体内部に発生した揚圧力によって被覆工が流失するなどの構造的弱点がある。
  • 図1(b)に、構造的弱点を改善した三面一体化堤防を示す。図2は、上記堤防の実施例である。ジオテキスタイル(盛土を補強するための高分子材料で作られたネット)を連結したプレキャストコンクリートブロック(以下、ジオテキブロックと呼ぶ)に、難透水性のセメント改良土を組み合わせている。これにより、海側と陸側の堤防の被覆工と天端工の三面を盛土と一体化した構造を構築することができる。ジオテキスタイルは耐アルカリ性を有する材質で、引張強度20kN/m~30kN/m程度のものを使用する。海側法面は、津波衝突時にジオテキブロックを巻き上げる力が作用するため、ブロック同士を鉄筋コンクリートで剛に連結した構造を採用する。
  • 図3は、海岸堤防の耐津波実験結果の概要である。(ア)難透水性ゾーンによって堤体内部への津波の浸入が遮断されるので、ジオテキブロックが押し出されない。また(イ)揚力や抗力によってジオテキブロックを引き剥す力が作用するが、ジオテキスタイルによってジオテキブロックを盛土に固定しているので、引き剥がれを防止できる。
  • 図4は、実施例における施工手順である。(ア)ジオテキブロックの据付、(イ)セメント改良土の撒出し、(ウ)転圧および整地の手順で、所定高さまで繰り返す。堤防天端工はコンクリートを打設し、完了する。
  • ジオテキブロックの使用により急な勾配の堤防が構築可能である。この技術により従来型式堤防に比べて耐震性の向上、耐津波化を図りながら建設用地の減少および建設コストの削減が期待できる。また減少した用地は景観や憩いの場としての機能を持つ緑の空間として活用することも可能である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国、都道府県等の海岸堤防の事業主体
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:東日本大震災の復旧地域、南海トラフ地震津波の警戒区域等
  • その他:基礎地盤の透水性や地下水位が高い場合、頻繁に波浪が作用する場合について被覆工や基礎地盤の遮水性を高める工夫が必要である。背後地盤の洗堀,長期維持管理などについては別途検討を要する.東北農政局の海岸堤防復旧事業で導入予定。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:災害リスクを考慮した農業水利施設の長期安全対策技術の開発
  • 中課題整理番号:412b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(地域再生)
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:松島健一、堀俊和、有吉充、上野和広、毛利栄征、大串和紀(竹中土木)
  • 発表論文等:
    1)松島ら(2014)土木学会論文集B2、70(2):986-990
    2)松島ら(2014)土木学会論文集B2、70(2):1001-1006
    3)松島ら(2014)国際ジオシンセティックス論文集、29:87-95
  • ジオテキブロック工法のマニュアル