農地基盤中の塩分濃度をリアルタイムで監視する簡易技術

要約

土壌水分量とバルク土壌EC、地温の3つを同時計測するセンサーを活用すると非破壊で連続的な土壌溶液ECの推定が可能となり、リアルタイムで塩分濃度の監視ができる。この手法は津波被災地や干拓地の塩害対策、ハウス栽培の塩類集積対策等で活用できる。

  • キーワード:電磁波、土壌溶液、電気伝導度、溶質濃度、非破壊モニタリング
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7552
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

津波被災地や干拓地等における農地では、塩水侵入や下層土に滞留する塩分等による塩害リスクに曝されている。特に、このような地域でハウス栽培するには、塩類集積を回避する必要があり、適時に最小限の灌水量で塩分制御を行うことが重要となる。農地基盤中の塩害リスクの把握には、採土して1:5水抽出法が用いられるが、継続的に測定・分析するためには多大な労力と時間を要するため、適時の灌水操作等による塩分制御が難しい。そこで、近年、普及が進んでいる土壌水分量、バルク土壌EC(土壌の固体・土壌溶液を含む総体的な電気伝導度)と地温の3つを同時計測するセンサーを使って農地基盤中の塩分濃度を土壌水分変動下において非破壊で連続的に監視する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 農作物の塩害には根周辺の水の塩分が影響する。センサーからの出力値のひとつであるバルク土壌ECは土壌の固体部分と土壌溶液のECの総体値であるため、実質的な塩害リスクが推定できない(図1)。このため、土壌水自体のEC(土壌溶液EC)をバルク土壌ECと土壌水分量、地温の3つの出力値をもとに推定する。バルク土壌ECと土壌水分量、地温の同時計測が可能な市販のセンサー等は、例えば、Decagon社5TE、Campbell社CS650やTDRシステムがある(図2)。
  • センサー出力値から溶質濃度を推定するまでの手順は次の通りである(図3)。まず、バルク土壌EC(ECb)と土壌水分量(θ)からECwを算定する。その際、事前に得られているECw-ECb-θ 関係を用いる。なおECw-ECb-θ 関係を得る具体的な手順は、2010年度研究成果情報「電磁波を用いた農地土層内の硝酸態窒素濃度モニタリング手法」に示されている。次に、算定されたECwは、地温の計測値を使って温度補正する。最後に、温度補正後のECwと溶質濃度の関係を用いて対象となる溶質濃度に変換する。これにより、野外の土壌水分変動下においても精度良く塩分濃度の推定が可能となる。
  • わが国における農作物の塩害被害が生じる危険性がある土壌指標として1:5水抽出法による土壌ECがよく用いられる。そのため、センサーで得られるECbとθの測定値からECwを算定して、更に、土壌ECに変換する経験式を求める。そして、本手法を適用することにより、土壌ECをセンサー設置深さごとに連続的にモニタリングできるようになる。これにより、リーチングの進行状況を土壌ECの値で確認でき、リアルタイムでの農作物の塩害リスクの把握や適時の灌水操作による塩分制御が可能となる(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農業関係の試験研究関係者、農地の塩分対策に関わる行政担当者、農家。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:津波被災地や干拓地等の海岸付近の農地。バルク土壌ECと土壌水分量、地温を同時計測するセンサーは年間数百本規模で普及。
  • その他:バルク土壌ECと土壌水分量、地温の同時計測にはDecagon社5TE、Campbell社CS650(各5万円前後,別途データロガーが必要)等のセンサーの利用やTDRシステムと熱電対の併用等がある。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能強化技術及び保全管理技術の開発
  • 中課題整理番号:420b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2014年度
  • 研究担当者:宮本輝仁、亀山幸司、塩野隆弘、岩田幸良
  • 発表論文等:
    1)Miyamoto et al. (2014)JARQ 受理
    2)宮本ら(2012)農工研技報、213:73-78