帯水層の塩水化を抑制することができる単孔式二重揚水技術

要約

1本の井戸内に止水のための仕切りを設け、その上下から同時に地下水を揚水する技術である。帯水層内に淡水域と塩水域が混在する場合でも、両者を混合させずに採水し、帯水層の塩水化を抑制することができる。

  • キーワード:地下水、水質保全、ポンプ、二重揚水、井戸
  • 担当:気候変動対応・農地・水気候変動
  • 代表連絡先:電話 029-838-7200
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

帯水層中に淡水域と塩水域が存在している沿岸域では、地下水を利用するため淡水域から揚水を行うと、局所的な圧力減少によって塩水が淡水域に浸入し水質が悪化する。これを抑止する技術として、塩水域と淡水域から同時に揚水し圧力差を発生させない二重揚水技術があるが、これまでの方法は塩水域と淡水域のそれぞれに専用の揚水井戸を設けるもので、2本の井戸の掘削が必要になる上、潮汐等によって塩水域と淡水域の境界深度が変化した場合、使えなくなる。本技術は1本の井戸に止水機能を持った仕切りを設け、その上下から同時に揚水するもので、低コストで、塩淡境界深度の変化に対応することのできる揚水手法である。

成果の内容・特徴

  • 本技術は、井戸内の深度別の地下水質を予め測定し、水質の良好な深度にポンプの一つを、水質の良くない深度にもう一つのポンプを、両者の中間に止水機能を持つ仕切り(パッカー)を設置し、パッカーを膨らませて井戸内の地下水の流れを遮断したうえで、2つのポンプを同時に動かす。水質の良い深度に設置されたポンプによって揚水された地下水は利用し、もう一つのポンプによって揚水された地下水は廃棄するもので、2本の揚水井を用いる方法に比べて、施設の設置費が低減できる(図1)。
  • .揚水装置は、1本の井戸の内部に独立して任意の深度に設置することのできる2つのポンプ、ポンプの間に配置されるパッカー、地下水圧・水質を測定するセンサー、これらを吊り下げる昇降機(櫓とウィンチ)、揚水量の制御装置等で構成される(図2)。
  • 止水に空気パッカーを用いることで、塩淡境界深度に応じて止水位置を自由に設定することができる(写真1)。また、ポンプ近くに設けられたセンサーによって、圧力と水質を監視しながら、それぞれのポンプの揚水量を調整することができる。
  • 農村工学研究所内に設けられた口径100mmの井戸での、試作機(写真1)による試験(地下水面深度8.4m、パッカー深度10.4m)では、上段ポンプと下段ポンプからそれぞれ揚水された地下水の電気伝導度(EC)の差が保たれており、双方の地下水を混合させずに揚水することが可能である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本技術を用いることによって、帯水層下部に塩水が浸入している沿岸地域において、地下水を塩水化させずに持続的に利用することができると期待される。また、津波等によって表層付近の地下水が塩水化している地域、地下水汚染によって帯水層の一部が使用できない地域においても、水質の良好な地下水が得られることが期待される。
  • 本技術は井戸内の仕切りに空気パッカーを用いており、止水を確実にするため、内壁が滑らかな金属や塩ビなどで仕上げられた管井(概ね口径40cm程度まで)を対象とする。

具体的データ

図1~3、写真1

その他

  • 中課題名:気候変動が農地・水資源等に及ぼす影響評価と対策技術の開発
  • 中課題整理番号:210e0
  • 予算区分:競争的資金(科研費)、交付金
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:石田 聡、白旗克志、土原健雄、吉本周平
  • 発表論文等:
    1)石田ら(2014)地盤工学会誌、62(11/12): 36-37
    2)石田ら「地下水揚水システムおよびそのシステムを用いた揚水方法」 特願2014-212060 (2014年10月16日)