地下水位の潮汐応答の分析による帯水層の水頭拡散率推定手法

要約

潮位の伝播により変動する地下水位の観測により、透水係数などの帯水層の性質を表す指標の一種である水頭拡散率を推定する手法である。海岸からの距離が異なる2地点の約1年間の水位観測データのみから簡易に推定することができる。

  • キーワード:地下水位、調和解析、潮位伝播、水頭拡散率
  • 担当:気候変動対応・農地・水気候変動
  • 代表連絡先:電話 029-838-7539
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

石灰岩島嶼等の貴重な水資源であり気候変動に対する脆弱性が懸念されている淡水レンズなどの地下水を適切に開発または保全するためには、帯水層の水理的性質を把握することが重要である。帯水層の水理的性質の指標としては透水係数や有効間隙率などがあり、それらを把握する手法としては揚水試験が広く用いられているが、多くの島嶼や沿岸域においては海洋潮汐の伝播によって地下水位も一日程度の周期で変動するため、揚水試験データの分析が難しくなりその結果の精度が悪くなるなどの影響が生じやすい。このため、そのような地域で、「透水係数÷有効間隙率×帯水層厚さ」に等しい水頭拡散率と呼ばれる帯水層の水理的性質の指標を推定できる手法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 潮位変動は海水に接する帯水層中を内陸に向かって減衰しながら伝播する。潮位の伝播によって地下水位が周期的に変動する沿岸地域において、海岸にごく近い地点および海岸から離れた地点でそれぞれ観測孔等に設置した自動記録型水位計により地下水位を369日間1時間間隔で同時に観測する(図1、表1)。
  • 2地点で得られた地下水位の連続観測データから、それぞれフーリエ級数展開の式を応用した三角関数の単純な計算式によりそれぞれ一定の周期をもつ主要な4つの潮汐成分(M2、K1、S2、O1)を分離・抽出(調和解析)して振幅と位相を計算し、2地点間の振幅比と時間遅れを導く(表1、図2上段~中段)。
  • 導かれた2地点間の振幅比と時間遅れをそれぞれ帯水層内での地下水位変動の伝播に関する計算式に代入することで、帯水層の水頭拡散率を推定できる(表1、図2下段)。
  • 本手法では、地下水位が潮位変動の影響により周期的に変動する沿岸域の範囲内において、一般的に揚水試験よりも広範囲の帯水層の平均的な水理的性質を把握できる。
  • 本手法のために現場で必要なものは2地点で地下水位を連続的に観測できる観測孔または井戸と、2台の自動記録型地下水位計のみであり、簡易に行うことができる。

成果の活用面・留意点

  • 本手法で得られる水頭拡散率から、資料調査、地質ボーリング、室内試験などの方法をあわせて用いることで透水係数など帯水層の性質を表す他の指標を推定することができる。それらの結果は島嶼の淡水レンズや沿岸域地下水の開発あるいは保全に必要なシミュレーションや計画の検討への活用が期待できる。
  • 本手法で用いる、振幅比と時間遅れからそれぞれ水頭拡散率を計算する式は、均質で厚さが一定であるなど単純な帯水層を仮定している。4潮汐成分と2式から計算される8つの水頭拡散率が互いに大きく異なる場合には、仮定を満たしていないと考えられるため、注意が必要である。

具体的データ

図1~2、表1

その他

  • 中課題名:気候変動が農地・水資源等に及ぼす影響評価と対策技術の開発
  • 中課題整理番号:210e0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:白旗克志、石田聡、吉本周平、土原健雄
  • 発表論文等:白旗ら(2014)農工研技報、215:141-154