下流河床低下時の洗掘被害に対し取水堰の基礎を保護するマット工法

要約

河床低下の上流取水堰への波及による洗掘被害を抑えるには護床ブロックの連結化と吸い出し防止マットの併設が有効である。この工法では、標準的な取水堰の想定最大洪水(計画高水)波形でも堰の基礎を洗掘から保護でき、堰の構造安定を維持出来る。

  • キーワード:取水堰、護床工、下流河床低下、洗掘、洪水
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7563
  • 研究所名:農村工学研究所 水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

取水堰築造後、砂利採取、治水掘削等による下流河床の低下が堰付近まで波及している事例が全国で多数見られる。このような堰では洪水時に堰直下が大きく洗掘され被害を受ける可能性が高い。現在、河床低下が波及した堰では、護床ブロックの追加等で対応しているが、大洪水や繰り返しの洪水での堰被害を防げないうえ、改修頻度が高い。本研究では、河床低下に抗して堰の長期供用を図るべく、より効果的で高耐久、低コストの改修工法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 河床低下の上流波及による堰直下の洗掘、根入れ露出被害(基礎の不安定化)を防ぐため、図1に代表される各種の護床工法を考案し比較検討している。
  • 検討は下流河床低下が問題になっている農業取水堰の標準ケースを中心に行っている。これは河床勾配1/450、河床平均粒径約4cm、堰高3m、単位幅当たり計画高水流量約18m3/s/m、下流河床落差5mで給砂無し(想定最悪条件)である。
  • ブロックの大型化(大面積化、単体29t)では河床低下波及時のブロック散逸は防げず(図2)、波及に伴う洗掘発達の遅延効果は通常ブロックの連結護床と平均的に変わらない(図3)。ただし、どの工法も通常ブロックの護床より遅延効果が大きい(図3)。
  • 大型ブロック護床でも連結護床でも、洗掘発達後の洪水減水時に放流水脈が垂れてくることで護床背面が吸い出し洗掘されて、根入れが露出する。根入れ露出の度合いは大型ブロック、連結護床とも大差ない(図4)。洪水減水時に堰ゲートを半開操作する場合、給砂減少となるので、このようなことが起きやすいと考えられる。
  • 吸い出し防止マットを連結護床に併設し、護床背面の吸い出し洗掘を抑止することで、遅延効果、根入れ保護効果を大きく改善出来る(図3、図4)。標準ケースでは計画洪水波形でも洗掘、直下段差の発生を防げる。本工法はダム、河川堤防で多用されている吸い出し防止マットを活用するのでコストを抑えられる。また、護床ブロックの連結化によりブロック規模を縮小出来るので、この点からもコストを抑えられる。

成果の活用面・留意点

  • 護床ブロックの大型化では、現地砂礫を中詰めに用いれば低コスト化出来る。
  • 連結護床上流端はエプロン下流端等と連結し、護床直下洗掘発達時の護床ずり落ちによる砂面露出を防ぐようにする。
  • 吸い出し防止マットの摩耗と浮き上がり抑止のため、ブロック被覆が必要である。
  • 吸い出し防止マットは背面への通水侵食により効果が削がれるので、マット上流端、側岸の止水を入念に行う。止水と三次元河床変形に対するマットの屈撓性を両立するため、マットは三面張り施工とし、その上流端左右岸の止水は特に入念に行うべきである。
  • 連結護床ブロック、吸い出し防止マットの長期耐久性は連結材径、マットの重ね枚数、に依存する。また、マット長さ不足では遅延効果、根入れ保護効果が低下する。
  • 標準諸元以外での適用性やマット長さ等の詳細な設計手法は今後の検討課題である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題整理番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:常住直人、高木強治、島崎昌彦、吉永育生
  • 発表論文等:
    1)常住、高木、島崎、吉永(2014)河川技術論文集、20:301-306

    2)常住、高木、島崎、吉永(2014)農業農村工学会論文集、投稿中