地表面で目視確認できない地盤内の変状箇所推定手法

要約

地震等により発生した変状を地表面からだけでは目視確認することが困難な地盤において、降雨前後に電気探査を行い、比抵抗分布の変化割合の解析により水分量が増加する範囲を推定し、地盤内のゆるみ部や亀裂の方向などの変状箇所を推定することができる。

  • キーワード:比抵抗モニタリング、降雨、水分量、ゆるみ、亀裂
  • 担当:農村防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7567
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地震等により被災した農地や斜面では、地表面で変状を目視確認できる場合は適切な対策が取られるが、その変状箇所は周辺や地盤内に広がっており、地表面からだけではその広がりを確認できない場合がある。変状の場所や方向によっては、その後の雨により斜面が不安定化したり水田の湛水に支障をきたしたりする場合がある。そこで、地盤内の情報を非破壊で入手できる電気探査を用いて降雨時の比抵抗変化をモニタリングし、水分量の増加範囲を推定することにより、地盤内の変状箇所を推定する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本手法は地震等によって亀裂やゆるみなどの変状が発生した地盤において、地表面からだけではその変状の広がりを目視確認できない場合に、その位置や方向を推定する際に指標となる低密度範囲を推定するものである。推定においては、降雨前に対する降雨開始後の比抵抗分布の変化割合を解析するため、降雨前および降雨開始後の探査データを取得する。比抵抗は水分量の上昇により低下するため、比抵抗が低下した個所はゆるみ部などの密度が相対的に小さく水分量が増加した箇所と考え、変状箇所を推定する。
  • 本手法を検討した斜面は、過去の降雨によりすべりが発生し、地表面が変形するとともに斜面内部にすべり面の存在が推定されている(図1)。検討した斜面では、上部に開口亀裂が確認され、地表付近の密度は相対的に低く、地表は植生で覆われている。検討斜面の試料を用いて密度毎の比抵抗値を計測した結果(図2)、水分で飽和させる前の試料では密度と比抵抗の関係は見られないが、水分で飽和させた後の試料では、比抵抗値が下がり、密度と比抵抗の間に正の相関が認められる。飽和前後の比抵抗値の差を飽和前の比抵抗値で除した変化割合を指標とすることで、水分量の増加範囲を推定し、相対的に密度が小さい範囲を推定することができる。
  • 降雨浸透による比抵抗の変化を時系列に取得するため、降雨開始前と降雨開始後に探査データを取得する(図3)。降雨前の比抵抗分布に対する降雨開始後の比抵抗分布の変化割合をみると(図4)、降雨開始後に斜面地表付近の相対的に密度が小さい範囲で変化割合が増加すること、比較的降雨強度が大きくなると斜面上部の開口亀裂から推定すべり面の方向に変化割合が増加すること、また、降雨停止から時間が経つと変化割合が減少することがわかる。これは、雨水の浸透による比抵抗の変化であると考えられ、電気探査で相対的に密度が小さい箇所を推定し変状箇所を推定することができる。

成果の活用面・留意点

  • 地下水面近傍や周辺にゆるみを発生させないすべり面などでは水分量の変化が小さく検出できない。
  • 本解析は鉛直断面の2次元解析であり、解析測線に直交する方向への変状の広がりが小さい場合は、深さ方向への変状の広がりは実際よりも短く推定される場合がある。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題整理番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:井上敬資、中里裕臣、川本治、吉迫宏、正田大輔、堀俊和
  • 発表論文等:
    1)井上ら(2014)H26農業農村工学会大会講演会講演要旨集:778-779
    2)井上、中里(2014)農業農村工学会論文集、82(2):101-111