東日本大震災後の地下水の塩水化長期化の要因

要約

東北地方太平洋沖地震に伴う巨大津波により被災した沿岸部低平地水田では、作付面積の減少により地下水涵養量も低下していることから、地下への海水の浸入が懸念されている。灌漑用水の減少は、海水浸入を引き起こす大きな要因であると考えられる。

  • キーワード:浅層地下水、海水浸入、沿岸部低平地、灌漑用排水、一次元地下密度流解析
  • 担当:農村防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7567
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東北地方太平洋沖地震に伴う巨大津波による浸水被害を受けた地域では、浅層地下水の塩水化が長期化しており農業復興の妨げとなっている。東北農政局により図1に示す観測井戸において2008年度から継続して(月1回程度)観測されている電気伝導度(EC、塩分濃度の指標)の変動を見ると、多くの井戸でECが依然高いままであること、また、震災直後よりも上昇している井戸があることがわかった(図2)。さらに、図1に示す地域では、いまだ半分以上の水田で作付けが行われていないため、地下への灌漑用水の供給量が減少しており、地下へ海水浸入が懸念される。そこで、ここでは農業用灌漑用排水が海水浸入へ与える影響について検討する。

成果の内容・特徴

  • 図2の観測結果から、比較的内陸に位置する観測井戸No.3では、ECは震災前の水準まで回復しているが、No.1、No.7、No.8の観測井戸では、回復傾向はみられず、徐々に上昇している。また、図3(d)の深さ方向のEC分布観測結果から、橋本堀排水路直近の観測井戸No.9においては、これよりも海側の観測井戸No.4よりもECが高い。
  • ECが徐々に上昇していること、No.9の井戸でECが高いことの要因として、水田作付面積の減少に伴う灌漑用水の地下への供給量の減少および、橋本堀排水路(図1参照)の強制排水による地下の海水の引き揚げが考えられる。そこで、これらの要因について一次元地下密度流解析(式1)によりその影響を検討する。
  • 不透水層深さは、簡単のため10m(本解析では、淡水層厚の変動範囲以上であれば透水層深さは何mでもよい)とした。透水係数は既往の研究から0.000082m/s、初期条件は既存の解析解を用い、潮位変動の与える影響は海近傍のみに限られるため海側は潮位一定、陸側は自由端境界とした。灌漑用水の地下への供給量は26mm/dayとし、これを灌漑面積50%に与えた場合、100%の場合、灌漑なしの場合、灌漑なし・排水路水位(海から1km地点の水位)30cm低下の4ケースについて、それぞれ3年間の計算を行った。
  • 解析の結果、海水層厚の差は年々増加し(図3(a)(b))3年目には海水層の厚さは、海岸部付近で、灌漑なしと灌漑100%では2m以上、50%と100%でも1m以上の差がみられる。また、この影響は、海から約1km地点(図1中のNo.9地点が海から約1kmである)まで及んでいる(図3(b))。
  • 排水路水位を下げた場合、海水が2m程度引き上げられる結果となった(図3(c))

成果の活用面・留意点

  • 解析の結果、灌漑用水の減少および排水路水位の低下は、地下への海水浸入に大きな影響を及ぼし、塩水化長期化の要因となっている可能性があることが示唆された。しかし、本研究では、現地観測結果を正確に説明するまでには至っていないため、定性的な評価にとどまっている。したがって、活用にあたっては詳細な現地観測により、より適切な解析条件の設定等が必要となる。また、津波由来の海水の滞留も考えられるため、これらの影響も含めて検討する必要がある。

具体的データ

図1~3、式1

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題整理番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:安瀬地一作、中矢哲郎、桐博英
  • 発表論文等:安瀬地ら(2014)土木学会論文集B2(海岸工学)、70(2):I_1226-I_1230