高能率深層地下水探査のための同時多点受信CSMT探査システム

要約

GPSの時刻信号による送受信同期によってS/N比を飛躍的に改善させ、複数の受信器を用いた多点同時計測により作業効率を向上させた、電磁法比抵抗探査システムである。深層の塩水域と淡水域の迅速な判別などの沿岸域の効率的な地下水探査に適用できる。

  • キーワード:地下水障害、代替水源、物理探査、比抵抗、低コスト
  • 担当:基盤的地域資源管理・用排水管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-8195
  • 研究所名:農村工学研究所・企画管理部、資源循環工学領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

渇水時や、高潮・津波災害等により沿岸農村地域の浅層地下水に塩水化が生じ代替水源を深層地下水に求める場合、迅速に広域的適用が可能な地下水探査手法が必要となる。そこで、電磁波を用いて地盤の電磁応答から地下の比抵抗分布を求め、低比抵抗の塩水化地下水の分布や地質構造を推定する電磁探査法のうち、1カ所の送信源に対し数10km2の受信範囲が設定できるCSMT(人工送信源地磁気地電流)法に着目し、同時多点受信により探査能率を向上させ、ノイズ源の多い沿岸地域でも適用可能な信号とノイズの分離能力を高めた送受信システムを開発し、現地適用試験により開発手法の有効性を検証する。

成果の内容・特徴

  • CSMT法では送受信信号の周波数を変化させ、高周波数では浅部の、低周波数では深部の情報を得るため、1シリーズの測定に1~数時間を要する。このため同時多点受信による現地作業時間の短縮は、広範囲を迅速・低コストで探査する上で重要である。試作受信器では入力を5チャンネルとし、場所による変化が少ない磁場のセンサ1地点に対し、最大4地点の電場センサを接続し、最大4地点のデータを同時受信できる。センサケーブル展開の能率も考慮すると、電場センサ間隔を100mとして同時に3地点を測定する受信システム(図1)2式を用いて6地点で同時受信するのが実用的である。
  • CSMT法を含む電磁探査法の沿岸域での適用では、送電線・人家等からの電磁ノイズの影響が問題となる。一般的な受信器では、送受信周波数付近の信号レベルを平均処理するが、試作受信器ではGPSの時刻信号を利用し、送信信号と厳密に時刻同期した時系列受信データをフーリエ変換し、周波数分解能を上げて送受信信号とノイズとを分離する波形処理方法を採用している。これにより、市街地においてもCSMT法の従来装置に対しばらつきの少ない滑らかな探査結果を得ることができ(図2)、強いノイズ源である高圧線に対しても受信点を150mほど離すことで信号とノイズを分離できる(図3)。
  • 送信側ではGPSの時刻信号と内蔵ルビジウム発振器により受信器と時刻同期する1~8192Hz倍数系列と5~5120Hz倍数系列の最大25周波数を送信可能な送信周波数制御装置を試作し、外部制御入力を持つ既存の送信器を利用して地表下数10~1000m程度までの探査を行うことができる。
  • 仙台平野南部における現地適用試験(図4)では、1シリーズ23周波数、約1時間の送信と図1の受信システム2式による6地点同時受信を1日で5回繰り返すことができ、本システムの探査能率は最大30地点/日程度と評価できる。

成果の活用面・留意点

  • 広域の地盤比抵抗分布を短期間で把握することが可能になり、渇水等の緊急時に備えた地下水賦存調査や、災害時の緊急水源調査に活用できる。
  • CSMT法では送信源と受信範囲を3km以上離すこととされており、最大15A程度の大電流を連続的に流すため、送信源の場所選定と安全確保には充分な検討が必要である。
  • 送受信時間・受信可能範囲・探査深度は、ノイズ状況・送信可能電流・地盤比抵抗により変化するので、事前情報や試験送受信結果に基づく調査計画の検討が必要である。

具体的データ

図1~2

図3~4

その他

  • 中課題名:地域農業の変化に対応する用排水のリスク評価及び運用管理手法の開発
  • 中課題整理番号:420a0
  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:中里裕臣、白旗克志、吉本周平、石田聡、土原健雄
  • 発表論文等:
    1)農研機構(2015)「電磁探査法を用いた沿岸域における効率的な深層地下水調査マニュアル」(2015年夏公開予定)
    2)中里ら(2014)平成26年度農業農村工学会大会講演会講演要旨集:620-621