硝酸態窒素溶脱の遅延効果をもつ土壌改良資材として適したバイオ炭の選出

要約

硝酸態窒素の下方移動の遅延効果をもつ土壌改良資材として適したバイオ炭を選出するため、7種類の原料から温度を変えてバイオ炭を生成し、硝酸態窒素吸着能の測定を行う。木質系バイオマスを原料として高温域で生成されるバイオ炭が最も有望である。

  • キーワード:土壌改良資材、バイオ炭、硝酸態窒素、吸着、移動遅延
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7552
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

バイオマスの熱分解生成物であるバイオ炭を土壌に混合することにより、地中に炭素貯留されるとともに土壌の理化学性が改善され、作物の生育に好影響を及ぼすと考えられている。また、バイオ炭は硝酸態窒素吸着能を有することも報告されている。硝酸態窒素吸着能を有するバイオ炭を土壌に混合した場合、硝酸態窒素の下方への移動が遅延し、農作物の根群域に滞留する時間が長くなり、作物が窒素を吸収する機会の増大及び根群域下層への溶脱が減少する可能性が指摘されている。このため、硝酸態窒素の溶脱が懸念される保水性・保肥性が乏しい畑地において、硝酸態窒素吸着能を有するバイオ炭を活用することにより、窒素利用効率向上や環境負荷低減を目的とした畑地整備が可能となると考えられる。一方、バイオ炭の硝酸態窒素吸着能は原料や生成温度等の条件によって異なることも報告されている。そこで、硝酸態窒素溶脱の遅延効果をもつ土壌改良資材として適したバイオ炭を選出するため、原料や生成温度の違いが硝酸態窒素吸着能に及ぼす影響について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • さとうきびバガスを原料として400~800°Cで生成されたバイオ炭では、硝酸態窒素吸着能は生成温度と共に増加する(図1)。
  • 硝酸態窒素吸着能を有するバイオ炭(図1における800°Cの炭)を混合した土壌カラムの上端から0~9hは20mg-窒素/Lの硝酸カリウム溶液を、9h以降は水を供給し、下端溶脱液の硝酸態窒素濃度変化を測定した場合、硝酸態窒素吸着能を有するバイオ炭の土壌への混合により溶脱が遅延し、ピーク濃度が低減する(図2)。このため、硝酸態窒素の溶脱を遅延するために硝酸態窒素吸着能を有するバイオ炭の混合は有効である。
  • 我が国の農村部における普遍的なバイオマスである間伐材チップ(スギ、ヒノキ)、孟宗竹、籾殻、さとうきびバガス、鶏糞、集落排水汚泥の7種類を原料として、400、600、800°Cでバイオ炭を生成し、10mg-窒素/Lの硝酸カリウム溶液と混合振とうさせ、振とう後の硝酸態窒素削減率から各バイオ炭の硝酸態窒素吸着能の比較を行った結果、どの原料においても800°Cで生成されたバイオ炭の硝酸態窒素削減率が最も高い(図3)。
  • 800°Cで生成された各バイオ炭の硝酸態窒素削減率は、スギ≒ヒノキ>孟宗竹>集落排水汚泥>籾殻≒さとうきびバガス>鶏糞の順であり、木質系バイオマスの方が、非木質系バイオマスよりも硝酸態窒素削減率が高い(図3)。このため、木質系バイオマスを原料として、800°C程度の高温域で生成されるバイオ炭が硝酸態窒素の下方移動を遅延させる資材として最も有望と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 硝酸態窒素が溶脱しやすい砂質土等の保水性・保肥性が乏しい畑地において、農作物の窒素利用効率向上や環境負荷低減のための対策技術として活用できる。
  • バイオ炭を混入した畑地において、バイオ炭による硝酸態窒素吸着能が継続的に作用するかについては未解明であり、長期的な機能評価が今後の課題である。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能の強化技術及び保全管理技術の開発
  • 中課題整理番号:420b0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:亀山幸司、宮本輝仁、岩田幸良、塩野隆弘
  • 発表論文等:
    1) Kameyama et al. (2012) J. Environ. Qual. 41(4): 1131-1137
    2) Kameyama et al. (2014) Proc. of AGRO’2014. 2: 452-458