分布型物質移動モデルによるウォッシュロードと放射性物質の移動予測

要約

降雨によって刻々と変化するウォッシュロードの移動と空間的に不均一に存在する放射性物質の移動を分布型物質移動モデルにより再現が可能となり、放射性物質により広域に汚染された地域におけるダム、頭首工等の貯留及び取水管理に活用できる。

  • キーワード:浮遊物質、ウォッシュロード、放射性物質、分布型物質移動モデル
  • 担当:放射能対策技術・農地除染
  • 代表連絡先:電話 029-838-7200
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

降雨による浸食で、強度の土壌劣化を受けた土地は全世界で約2.2億haに及んでおり、農業を継続するうえで大きな課題となっている。また、東京電力福島第1原発事故によって広域に拡散した放射性物質は土壌表層近くに沈着し、降雨による表土浸食に伴い浮遊物質とともに下流に移動することが予測される。このような東日本大震災以降の新たな社会的要請からも、浮遊物質とそれに吸着する放射性物質の物質移動を時空間的に明らかにすることが重要な課題となっている。このため、浮遊物質の生産と運搬の基礎理論を整理し、浮遊物質移動および放射性物質移動を反映できる分布型物質移動モデルの構築を行い、浮遊物質の中で大半を占めるウォッシュロード(粒径0.075mm以下の粘土、シルト)とそれに吸着して移動する放射性物質の移動予測を試みる。

成果の内容・特徴

  • 分布型物質移動モデルは、既開発の分布型水循環モデル、新たに開発した浮遊物質移動モデルと放射性物質移動モデルによって構成される。浮遊物質移動モデルは、斜面部での表面流浸食による生産過程、雨滴浸食による生産過程、堆積過程の3生産過程とし、河道部はウォッシュロードを対象とするため巻上浮遊、沈降堆積を考慮せず、運搬過程を表現するモデルで、流水変化、ウォッシュロード濃度変化を一体的に追跡することによって、ウォッシュロードの移動予測を行う(図1)。
  • 放射性物質移動モデルは、流域に不均一に沈着する放射性物質沈着量から、土粒子表面に放射性物質が均等に吸着すると仮定して土粒子粒径毎に放射能濃度を算出する方法を整備し、ウォッシュロードに吸着する放射性物質の移動を、流水変化、ウォッシュロード濃度変化、放射能濃度変化を一体的に追跡することにより移動予測を行う(図1)。
  • 東京電力福島第一原子力発電所事故により、対象流域を含めて広域に放射性物質が沈着している(図2)。流域内の森林、畑等の表土の物性値調査を行い、斜面部のウォッシュロード生産、それに吸着する放射性物質濃度算出など基礎資料として活用する(図3)。
  • 2013年7月から10月までの懸濁物質量(以下SS)、水中セシウム137(以下水中Cs137)濃度等の観測資料により本モデルの検証を行う。その結果、ウォッシュロード及び放射性物質の移動を概ね良好に再現している。
    降雨によって刻々と変化するウォッシュロードの移動と空間的に不均一に存在する放射性物質の移動を本モデルにより予測できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 土地利用の変化に伴う土壌流亡予測及び対策に活用できる。
  • 放射性物質に汚染された地域のダム、頭首工等の貯留及び取水管理に活用できる。
  • 本モデルによる移動予測は解析対象流域の斜面表土の物性値(土粒子密度、粒度分布、間隙率)の把握が必要である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:高濃度汚染土壌等の除染技術の開発と農地土壌からの放射性物質の流出実態の解明
  • 中課題整理番号:510a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:名和規夫、吉田武郎、堀川直紀、工藤亮治、皆川裕樹
  • 発表論文等:名和ら(2015)農村工学研究所技報、217:39-52