農家が収穫残渣等を活用して排水改良できる有材補助暗渠機「カットソイラー」

要約

農家が保有するトラクタで使用できる有材補助暗渠機「カットソイラー」を用いると、農地から出る収穫残渣や容易に入手可能な堆肥などの資材を疎水材として、農家が自ら簡便に圃場の排水性を改良できる。

  • キーワード:有材補助暗渠、カットソイラー、収穫残渣、農家、トラクタ
  • 担当:新世代水田輪作・農地生産機能
  • 代表連絡先:電話 029-838-7642
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:主要普及成果情報

背景・ねらい

田畑輪換や畑輪作における畑作物の安定生産を推進するため、圃場排水性や土壌理化学性を簡便に改善する必要性は高い。これまでには事業用工法が開発されているが、農家が自ら身近にある収穫残渣や堆肥などの資材を活用して簡単に土層改良できる技術が要望されている。そこで、農家が保有するトラクタを用いて圃場排水性や土壌理化学性を簡便に改良できる施工機を開発する。さらに、開発した施工機における資材の活用法と土壌理化学性や生産性の改善効果を明らかにし、実用技術として確立する。

成果の内容・特徴

  • 有材補助暗渠工法である農業新技術2012「カッティングソイラー工法」をトラクタ用に改良した施工機「カットソイラー」は、施工機の走行により、逆三角形の土塊を切断成形して持上げて作った35~50cmの任意の深さの溝に、地表面に散在させた細かな資材を120cmの幅で掻き寄せて落とし込み、下層に疎水材充填溝を構築できる(図1)。
  • 使用できる資材は、10cm程度に細断されている稲ワラや麦ワラなど収穫残渣、堆肥などの有機質資材、その他の細粒状の資材である。適当な資材量は、ワラ類が100~300kg/10a、堆肥は4~8t/10aである。カットソイラーは、資材を溝下部に埋設して補助暗渠を構築し、農地の排水性を高め、未施工より土壌を乾燥傾向に維持する(図2)。
  • カットソイラーは、下層に有機質資材を埋設することで、下層土の物理性とともに化学性を改善する。下層土にリン酸などが乏しい場合には、下層土のリン酸含量などを高めることができ、作物根の伸長を促して作物のリン酸吸収量などを増加させ、作物の生産性を向上できる(図3)。
  • カットソイラーは、畑作物に対する効果が高く、増収による増益で施工費用を賄うことができる(表1)。特に、直播テンサイなどの作業適期が短く、深根性で湿害に弱く、土地利用型作物の中でも単位面積当たりの収益性の高い品目に対して効果的である。
  • カットソイラーはほとんどの土壌で使用できる(表1)。しかし、石礫や埋木が多い場合は施工できない。なお、適用トラクタは、3点リンク接続できる規格がカテゴリーII以上の60馬力以上の4輪駆動が必要である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:排水不良地域の農家や法人、農業団体や市町村、農機メーカー、建設業者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の排水不良な地域に数十台の導入が想定される。2015年12月時点で4道県の6台の施工機により多くの農家で現地実証済み。
  • その他:農機メーカーによる代理店販売を行い、株式会社北海コーキが受注生産する。下層土に埋設した有機質資材の分解程度は、2013年主要普及成果情報「有機質疎水材を活用した農地下層への炭素貯留ポテンシャルの全国評価」を参照のこと。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:低コスト整備と水位制御による農地の生産機能強化技術の開発
  • 中課題整理番号:111a3
  • 予算区分:交付金(農地生産機能)、革新事業(道産米国際競争力・十勝スマート農業)、委託プロ(豪雨対策)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:北川巌、後藤幸輝(株式会社北海コーキ)
  • 発表論文等:
    1)北川ら 「資材等埋設作業機及びその施工方法」特願2014-178776
    2)北川ら (2010)農業農村工学会誌、78(11):899-902