水利システムの水利用・水理機能の分析・診断手法

要約

水利システムのネットワークを点の要素(ノード)と線の要素(リンク)に分割し、これらを再構成することによって、水利用・水理機能を分析・診断する手法である。水利用・水理性能の問題発見と対策、及び機能保全・更新計画の立案に役立つ。

  • キーワード:水路ネットワーク、水理機能図、性能診断、性能照査、水路階層
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7565
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年発達のめざましい宅配などの物流システムは、商品を回収し、運搬し、分配する機能から構成されるネットワークと見て扱われる。水利システムも物流システムと同じネットワークであることから、同様な見方に倣うと、その基本的な機能は、水を回収すること、運搬すること、分配することに整理できるので、水利システムの持つ機能や性能をこれらの組み合わせで評価できる。そこで、水利システムの持つ水利用・水理機能を分析・診断手法を、ネットワークの見方に基づく新たな技術の体系として整理する。

成果の内容・特徴

  • 用水システムは分配ノード(水を分けるしくみまたは機能)、排水システムは回収ノード(水を集めるしくみまたは機能)がリンク(水路、水を運搬する機能)で結ばれたネットワークとしての形式で表記できる。ネットワークの持つ階層とスケールに応じて、ネットワークの観点からの診断レベル0~3と診断内容との関係を表示することができる(表1)。
  • 水理機能図は、水利システムをネットワークの表記を使って書き換えた分析ツールである(図1)。調査者は、あらかじめ既往の用排水系統図や流量配分図などを基に水理機能図の骨格を作成し、聞き取り・現地調査等に基づき完成させる。これにより過去の事業の履歴や現時点における問題点を関係者間で共有することができる(図1)。
  • 水理機能図における単一のノードは単一の施設に対応し、複数台のポンプや複数のゲートから単一ノードが構成される場合もある。過去に行われた施設改修前後における水理機能図を描いて比較し、問題の発見や所在に関する分析を進めることができる(図1)。
  • 用水路位数を使って水利システムの階層バランスを分析できる(図2)。隣接する階層間に大きな位数のギャップがある場合は用水システムの配水バランスが崩れていることを意味し、ギャップが原因で不均等配水、過剰取水などの問題を生じている可能性が高い。ギャップの解消のためにはネットワークのつなぎ替えが有効であり、水路のバイパス化(図2)や2連化対策の立案を同じレベルで検討できる。
  • これまで、国内で開発されてきた既往の水利システムの水利用・水理機能診断・分析ツールについては、主として表1中のレベル0~2(特に赤字で記載した箇所)の診断のためのツールとして位置づけることができる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:かんがい排水事業の地区調査に携わる技術者と施設管理者(土地改良区等)
  • 普及予定地域:かんがい排水事業の機能診断・更新計画立案対象の水利システム
  • その他:本成果は、国営水利総合対策(H29~)のための水利機能評価手法として取り入れられる予定である。また、本文中にある分析ツールは、「農業水利施設の機能保全の手引き」(27年度改訂)の水利用性能・水理性能の項目に対応している。特に、現場の実機を対象とした分水工の水理機能診断への適用事例が研究資料に公表されている。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題整理番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:樽屋啓之、中田 達、浪平 篤、田中良和
  • 発表論文等:
    樽屋ら(2015)水土の知、83(4):15-18
    樽屋ら(2015)土木学会論文集、B1、Vol.71、No.4、I_1333-I_1338
    中ら(2015)水路システム工学、第8章「水路システムの機能保全」、養賢堂