土砂災害に対する我がこと防災意識醸成による地域防災力の維持・向上

要約

土砂災害に対する住民の自主防災活動の取り組み意識を喚起する「手作り防災マップ」、意識を持続する「雨量自主観測」と、意識を行動に繋ぐ「自主防災行動指針」の3段階の取り組みにより我がこと防災意識が醸成され、農村の地域防災力は維持・向上する。

  • キーワード:自主防災、ワークショップ、防災マップ、スマートフォン、雨量観測
  • 担当:農村防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7567
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

地域防災力を高めるためには、住民や自治会が平時から地域に起こりうる災害リスクを我がこととして捉える意識(我がこと防災意識)を持ち続けることが重要である。多くの地域では、防災マップの作成を通じた防災力向上が取り組まれているが、作成時に一時的に住民の我がこと防災意識は高まっても、時間を経るにつれて意識が薄れていく傾向が指摘されるなど、実行性のある防災力を持続することに苦慮している。そこで本研究では、住民や自治会の災害リスク対応能力を維持し向上させることを目的として、手作り防災マップの作成、雨量自主観測の取り組み、自主防災行動指針の策定の3つの取り組みからなる我がこと防災意識の醸成によって、地域防災力の維持・向上手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 我がこと防災意識醸成による地域防災力維持・向上手法は、図1のように3つ(仕掛け、繋ぐ、規範化)のステップから構成される。
  • 第1ステップでは、環境点検ワークショップにより地域の災害リスクや災害時の避難経路などを図示した手作り防災マップ(2012年度研究成果情報「住民の経験知・生活地を活かした住民災害リスク認識醸成手法」を参照)を作成する。この取り組みにより、住民の我がこと防災意識が喚起される。
  • 第2ステップでは、簡易な雨量システム(2013年度普及成果情報「地域防災のためのスマートフォンを活用した雨量観測・閲覧システム」)を導入して、自治会が自主的に地区の雨量を常時観測する自主観測活動に取り組む。これにより、住民は雨量に対する平時からの関心を保持するようになって、喚起された防災意識が持続される(図2)。
  • 第3ステップでは、自治会が自主観測活動で得られたデータを住民の日常的感覚に即した雨量表現に照らし合わせて、住民にとって簡明かつ取り組みやすい自主防災行動指針(雨量基準)(図3)と防災連絡体制(図4)を作成する。これにより、一般的に認識が困難な雨量と災害リスクの関係が分かり易くなり、防災意識を具体的な行動へと発展させることが円滑になる。
  • 事例地区で実施した社会実験では、以上の3ステップを実践することにより、住民の自主防災活動への取り組み意識が醸成され、自主防災行動指針が作成されることで地域防災力の維持・向上が図られている。

普及のための参考情報

  • 普及対象:地域住民及び市町村の防災担当者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数:大阪府管内の100箇所以上のため池地区、全国のため池氾濫解析を実施した市町村や豪雨等による土砂災害リスクの高い地域
  • その他:地域住民が自主的に作成する防災行動指針は、行政の避難勧告や防災計画を前提とするものであり、それらの内容と齟齬が生じないように留意する。また、本手法は、自主観測の対象項目を地域で想定される災害に合わせてカスタマイズすることで土砂災害以外の防災行動に適用できる。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題整理番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:重岡徹、福本昌人
  • 発表論文等:
    1)重岡(2015)職務作成プログラム「LaRCデータ通信制御プログラム」、機構-Q22
    2)重岡(2015)山﨑農業研究所雑誌、136:3-8