都市近郊農業の振興に向けた多様な担い手の参加促進手法

要約

都市近郊農業の振興には、地域コミュニティが生産者を支援する産消連携型のモデルの導入や、障がい者や高齢者を含めた新たな人材の参加を容易にするための農地活用と農作業の技術支援等、多様な担い手の参加を促進させる手法が有効である。

  • キーワード:産消連携、地産地消、都市農村交流、障がい者、高齢者
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7552
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

国民の価値観・ライフスタイルの多様化を背景に農業への関心が高まっている。また、高齢社会の到来により、農業が有する福祉機能が注目されている。平成27年4月に施行された都市農業振興基本法においても、地産地消の促進や都市住民が身近に農作業に親しめる場の提供など、農業が有する多様な機能の発揮を求めている。そこで、都市及び近郊地域における農業振興を推進するための産消連携の仕組みづくりや、障がい者や高齢者が農作業に親しめる場を提供する等により、多様な担い手の参加を促進させる手法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、産消連携型モデルのひとつである消費者が前払い契約や援農で生産者を支援するCSA(Community Supported Agriculture)の導入、障がい者の農作業参加の場としての都市近郊農地の活用、都市の非農家高齢者による屋外での農作業の技術支援、の3つの要素で構成される(図1)。
  • 茨城県つくば市のA農園では、直売や消費者との交流活動を通じてCSAが導入され(図2)、非農家(消費者)による前払い契約や援農により農家(生産者)支援に取り組むことで、安定した農業経営と都市農村交流を実現している。CSAはコミュニティ形成等の多様な機能を発揮しながら、地産地消による農業振興に寄与する。
  • 障がい者の農作業参加は、彼(女)らの熱心な農作業姿勢が近隣高齢農家等からの不作付農地の貸与の申し出を促進し、取り組みから5年で農作物栽培面積が4.6倍に拡大している(図3)。このように都市近郊農地を障がい者の農作業参加の場として活用することにより、彼(女)らの社会参加や就労を支援するとともに、都市近郊の農地は障がい者の農作業参加の場としても活用できる。手間を要する伝統野菜等の栽培を行うことで、地域住民との交流機会の増加、野菜の消費拡大、栽培面積の拡大等が期待される。
  • 都市近郊地域のデイサービスを利用する高齢者28名を対象に、屋外での農作業の歩数を計測すると、平均値は251~537歩/時であり、個人差が大きいものの室内活動(39歩/時)に比べて大幅に増加する(図4)。また、支援員の観察と照合すると健康維持にも有効な運動であることが確認される。非農家高齢者に農作業参加を促すには、行政や地域からの支援に加えて、農家からの技術支援や高齢者の不安解消、デイサービスからの支援等の仕組みが有効であり、同世代の農家と非農家の都市住民交流にもつながる。
  • これらの手法の活用により、消費者、障がい者、高齢者の農業参加が促進され、地産地消、都市農村交流、福祉等の機能を増進しつつ、都市近郊農業の振興につながる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:普及指導機関や自治体、農業者、農業法人、社会福祉法人等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の都市地域、都市近郊農村地域
  • その他:「CSA(地域支援型農業)導入の手引き」が入手可能。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能強化技術及び保全管理技術の開発
  • 中課題整理番号:420b0
  • 予算区分:交付金、農食事業
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:唐崎卓也、石田憲治、吉村亜希子、鬼丸竜治
  • 発表論文等:
    1)唐崎ら(2012) 農村生活研究、56(1):25-37
    2)石田ら(2014) 畑地農業668、17-22