パイプハウスの軒高の増加が耐風性能に及ぼす影響

要約

室内温度環境の緩和空間や断熱資材等の設置空間を確保するためにパイプハウスの軒高は高くなる傾向にあるが、軒高を高くすると風上側屋根面の負圧が局所的に高まり、パイプハウスのアーチパイプが変形して倒壊する危険性が増す。

  • キーワード:パイプハウス、軒高、風圧係数、耐風設計、風洞実験
  • 担当:日本型施設園芸・低コスト設計・制御
  • 代表連絡先:電話029-838-7594
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

温室内温度環境の急激な変化を緩和するための空間創出を目的として、一部の温室で高軒高化が進んでいる。高軒高化は鉄骨ハウスやフェンロ型等の連棟温室で顕著であるが、パイプハウスでも同様の試みがなされている。パイプハウスでは、作物生育空間の上部に断熱資材等を設置するためにも、高軒高化が求められている。このような高軒高化は一方で、温室の断面形状の変更により温室周囲の気流環境が変化することにつながる。気流が変化すると温室表面に生じる風圧力も従来とは異なる分布となるため、耐風設計の変更を余儀なくされる。ところが、パイプハウスの軒高が変化した場合の風圧力分布は定められていないのが現状である。以上の視点に基づき、パイプハウスの軒高が変化した場合を想定した風洞実験を行い、軒高がパイプハウスの風圧係数Cpに及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 棟高3.16mのパイプハウス(モデルS)の棟高を基準とし、+0.25m、+1m、+2mの3つの異なる棟高のモデル(それぞれモデルH1、H2、H3)を設定する(図1)。これら4モデルの縮尺1/20の模型を作製する。
  • 基準棟高(モデルS)では風上側側面のCpは0.37である。風上側屋根面ではCpは徐々に0から減少し、棟の位置で-0.68に達する。風下側屋根面では概ね-0.68から-0.63の範囲で一定である(図2)。設計に使用する風力係数Cfは、内圧係数を-0.2として算定すると、風上側側面、軒近傍の屋根面、および棟においてそれぞれ0.57、0~-0.2、-0.48となる。
  • 風上側屋根面のCpは棟高Hに強い影響を受ける。風向が桁行方向に直行する場合、風上側軒の背後で非常に大きな負圧が発生する。その値はHの増加に伴って大きくなる。ピーク値はモデルH1、H2、H3でそれぞれ-0.44、-0.54、-0.68である(図2)。Cfに換算すると-0.24、-0.34、-0.48であり、モデルSに比べ負圧が大幅に増加する。そのため、アーチパイプの破壊を回避するにはパイプの断面係数を増加する必要がある。
  • Cp分布は棟高および風向θに影響を受ける。Cpの負のピーク値Cpminは、風下側屋根面の風上側妻面近傍の非常に小さな領域において発生する。モデルS、H1、H2ではθ=25°のとき、モデルH3ではθ=35°のときにピーク値が発生する。Cpminの値は、モデルS、H1、H2の場合は-3.53~-3.24であるが、モデルH3では-4.03と大きな値となる(表1)。軒高/間口の比が0.5から0.8に増加することで、風圧係数が風向によって大きく変動することから、耐風設計の難易度が高まる。
  • 抗力係数CDおよび揚力係数CLの値はHの増加につれて減少するが、その差異はわずかである(表2)。Hの増加による顕著な影響はパイプハウス屋根面に限定される。

成果の活用面・留意点

  • パイプハウスの棟高を増加させた場合のCpは、パイプハウスメーカーや生産者によるパイプハウスの安全設計のための必要不可欠な指針となる。

具体的データ

その他

  • 中課題名:安全・省エネ・好適環境のための低コスト施設設計・環境制御技術の開発
  • 中課題整理番号:141b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2015年度
  • 研究担当者:森山英樹、奥島里美、石井雅久
  • 発表論文等:Moriyama H. et al. (2015) T. ASABE. 58(3):763-769