屋根開放型温室による高温抑制効果と日射・気温特性

要約

屋根開放型温室は在来の丸屋根型温室と比べて屋外と室内の気温差が小さく、室内の気温は外気温近くで維持される。丸屋根型温室は風向によって室内の気温が変化するが、屋根開放型温室の気温は風速および風向の影響が少なく、高温抑制効果の高い温室である。

  • キーワード:自然換気、環境制御、気温、風向、風速
  • 担当:日本型施設園芸・低コスト設計・制御
  • 代表連絡先:電話029-838-7594
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

施設園芸の高温抑制技術には、換気、遮光、冷房などあるが、換気窓の開閉による換気は気温、湿度、炭酸ガス濃度などを調節できるので、広く普及しているが、在来の温室では夏季の高温が問題となっている。また、近年は農業の高齢化対策や雇用の促進が課題となっているが、温室の高温抑制は農作業者の熱中症予防や労働環境の改善にも寄与する。屋根開放型温室は、在来の自然換気温室と比べて屋根の開口面積が大きく、高温抑制効果が高い温室として期待されているが、屋根開放型温室の研究事例は少なく、わが国での高温抑制の効果や環境特性などは明らかでない。そこで、在来の温室として屋根の開口面積が小さい丸屋根型温室と屋根開放型温室を、高温条件下かつ同一気象条件のもとで室内外の環境を計測し、屋根開放型温室の日射・気温特性と高温抑制効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 丸屋根型温室(以下、丸屋根型)と、屋根の開閉機構が異なる2種類の屋根開放型温室を用いる。丸屋根型は、棟を支点に片側(ここでは東側)の屋根が軒より持ち上がり開放する。屋根開放型温室は施設構造がフェンロー型温室と類似するが、一方の屋根下端を支点に、もう一方の屋根下端を水平移動して屋根を折り畳むことにより開放する方式(以下、軒開放型)と、屋根下端を支点に屋根を垂直方向に開放する方式(以下、棟開放型)がある。丸屋根型は間口8.3m、奥行き15m、軒開放型は間口9.9m、奥行き19.9m、棟開放型は間口10m、奥行き19m、各温室の方位はすべて南北棟(図1)。
  • 快晴日の温室内中央の日射量は、軒開放型、棟開放型の室内日射量は、室内反射により屋外以上の時間帯があるが、構造材の影によって大きく変化する(図2)。
  • 軒開放型と棟開放型の室内気温は、外気温に近く、両温室とも同様に推移したのに対し、丸屋根型は屋根開放型温室よりも常に高く推移する。9時から15時の各温室の平均内外気温差は、軒開放型、棟開放型はそれぞれ1.6°C、1.5°Cであるが、丸屋根型は8.4°Cである(図3)。
  • 屋外日射量が500W・m-2以上の強日射条件のもと、軒開放型、棟開放型の内外気温差は外風速の強弱に関わらず、おおよそ2°C以下で推移するが、丸屋根型の内外気温差は両温室よりも常に大きく推移する(図4-a)。
  • 丸屋根型の気温の変化は屋外風向に対して指向性があり、換気窓の開口方向である東寄りの風では気温差が小さくなり、換気窓の開口方向と反対の西寄りの風で気温差が大きくなるが、軒開放型、棟開放型の内外気温差は屋外風向の影響が少ない(図4-b)。

成果の活用面・留意点

  • 屋根開放型温室の室内気温は外気温近くで制御でき、換気窓の開口面積が小さい丸屋根型温室と比べて換気が良く、高温抑制効果は極めて高い。
  • 丸屋根型温室の換気は屋外風向に対して指向性があるが、屋根開放型温室の換気は屋外風向や風速の影響を受けない。
  • 各温室は無植栽で、防虫網の展張はない。

具体的データ

その他

  • 中課題名:安全・省エネ・好適環境のための低コスト施設設計・環境制御技術の開発
  • 中課題整理番号:141b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:石井雅久、奥島里美、森山英樹、佐瀬勘紀(日大)、福地信彦(千葉農総セ)、Arend-Jan Both(ラトガース大)
  • 発表論文等:Ishii M. et al. (2015) Acta Hort. 1107: 67-74