横越流堰の水理設計のための3次元流れ解析手法

要約

水面変動を表現するためにVOF法を適用したレイノルズ平均流れの3次元解析は、横越流堰の水理設計に適用可能な再現性を有しており、横越流堰からの越流量の汎用的な解析手法として利用できる。

  • キーワード:農業用水路、防災機能、余水吐、レイノルズ平均流れ、VOF
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7563
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

既存の横越流堰の流量公式は、模型実験で検証された範囲を超える条件への適用は保証されていない。本公式中の係数は1つであるが、それを支配するパラメータは4つあり、これらパラメータを独立して変化させる実験の実施が物理的に極めて困難なため、普遍的な公式の確立も非常に困難である。そこで、水利施設の設計に有効であることが確認されつつある3次元流れ解析に着目し、既往の水理模型実験および流量公式に対する再現性の検証を行う。

成果の内容・特徴

  • 水面変動を表現するためにVOF(Volume of Fluid)法を適用し、効率よく定常解を得るためにレイノルズ平均流れを対象とする。水路および横越流堰が複雑な形状をしている場合にも対応できるように一般座標系で3次元解析を行う。
  • 農業用水路における横越流堰についての既往の水理模型実験の結果を比較の対象として、本解析手法の再現性を検証する。なお、既往の水理模型実験は水理計算で比較的多く用いられる流量公式(関谷・石野の式)の適用範囲外の条件下で行われたものである。
  • 本解析手法は、既往の水理模型実験による横越流堰周辺の水深の平面分布の定性的な傾向を十分に捉えていると判断できる(図1)。
  • 本解析手法は、上記2の水理模型実験による分流比(横越流堰からの放流量÷上流からの供給流量)を高い精度で再現している(表1)。
  • 上記2の水理模型実験の条件を、農業用水路における横越流堰の水理設計で比較的多く用いられる流量公式(関谷・石野の式)の適用範囲内となるように変更した解析モデル(水路幅:0.15m、横越流堰の長さ:Lm、横越流堰の高さ:Dm)に対し、上記1の解析手法を適用すると、解析から直接的に得られる越流量と、水面形の解析値を上記流量公式に適用して得られる越流量は、高い整合性が得られる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 土地改良事業等における横越流堰の水理設計において、既存の流量公式では適用範囲外の条件となり水理模型実験が必要となる場合に、本解析を実施することで実験検討ケースを大幅に絞り込むことが可能となる。
  • 本解析手法は現状では横越流堰の縦断面形状を単純化している。複雑な縦断面形状のモデル化方法は今後の課題である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題整理番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:浪平篤、樽屋啓之、中田達、田中良和
  • 発表論文等:浪平ら(2015)農業農村工学会論文集、299:II_103- II_111.