水路の水に含まれているDNAから対象魚類の生息の有無を推定する方法

要約

個体採捕の代わりに水路の水に含まれているDNAを抽出し、希少種等の対象魚類のDNAを検出することにより、生息の有無を推定する方法である。生物調査や形態分類の知識・技能がなくても利用することができる。

  • キーワード:環境DNA、間接的観察法、生きもの調査、生物多様性、農業農村整備事業
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7563
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業農村整備事業に関連して実施される生物調査は、専門知識・技術を要するため人材の確保が困難である。このため、調査範囲や実施回数などが著しく制約され、十分なモニタリング調査が行われていない事業地区も珍しくない。さらに、現行の調査法はタモ網や定置網を利用した個体採捕に基づくため、魚体の損傷や個体の死亡を避けることができず、生息量の少ない希少種や保全対象種への影響も懸念される。本方法は、生息生物の老廃物や糞等に由来する環境DNAを用いた間接的観察法である。個体採捕の代わりに水路の水に含まれているDNAを抽出し、対象魚類のDNAを検出することにより、生息の有無を推定できる。

成果の内容・特徴

  • 方法の手順1~7を図1に示す。対象魚類、調査水路、採水地点等を決定後(手順1)、各地点で水1リットル程度を採水し(手順2)、フィルターろ過する(手順3)。市販のキット等を利用し、フィルター上の残渣からDNAサンプルを抽出する(手順4)。
  • 対象魚類に固有のDNAを検出するための種特異的プライマーを設計し(手順5)、DNAサンプルとプライマーを用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)増幅を行う(手順6)。PCR増幅後に電気泳動を行い、対象魚類のDNAのコピーが生成されているかを確認する(手順7)。目的サイズのDNAバンドが検出されれば、サンプルには対象魚類のDNAが存在するため、水路に対象魚類が生息する、出現しなければ非生息とする。
  • 実証事例として、アブラハヤを対象とし(図2a)、本種の生息が予め確認されている岩手県奥州市と確認されていない千葉県成田市の水路(図2b)の分析結果を示す。採水量は、両水路ともに1リットルである。種特異的プライマーは、本種のミトコンドリアDNAのシトクロームb遺伝子にある156塩基の配列のみをPCR増幅するように設計されている(図2c)。
  • 電気泳動の結果(図3)、アブラハヤが生息する奥州市のサンプルからは明瞭なDNAバンドが出現し、生息していない成田市のサンプルからは出現していない。さらに、奥州市のDNAバンドの塩基配列を決定すると、その配列はDNAデータベース上のアブラハヤの配列と一致し、この結果は本方法が正確であることを示している。

成果の活用面・留意点

  • DNAの検出力は魚類の生息量と関連する可能性がある。効率的な分析を行うために予備調査を実施し、調査計画の段階で対象種、採水地点数等を決めることが望ましい。
  • 手順4~7は一般的なDNA分析手法であり、大学等の試験研究機関の生物実験室に常設されている機器で分析できる。各機器の操作は簡単で、試薬混合等も添付のプロトコールに従うだけなので、数回の分析経験があれば本手法を1人で行うことができる。
  • 担当者は、アブラハヤの他にも保全対象となり得る魚類10種、両生類等5種のプライマーを既に設計している。各プライマーの実証実験を進めることにより、本方法を生物調査手法として確立し、生物分類技能を要さないマニュアルの作成を目指している。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題整理番号:411b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(気候変動)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2015年度
  • 研究担当者:小出水規行、渡部恵司、森淳、竹村武士
  • 発表論文等:Koizumi N. et al. (2015) IDRE Journal 297:IV_7-IV_8