農業用ダムの地震観測記録に基づく強震時挙動の特徴

要約

ダム耐震性能照査の照査用下限加速度応答スペクトルに匹敵する強震動がダム基礎地盤から堤体に入力すると、ダム堤体内において地震動が堤頂に向かって伝播しながら振動が増幅する一般的な応答と異なり、振動が増幅しない特異な応答挙動が生じる。

  • キーワード:フィルダム、地震観測記録、増幅、最大加速度、周期
  • 担当:農村減災・防災・農業水利施設防災
  • 代表連絡先:電話 029-838-7571
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

フィルダムの地震時の応答挙動ではダム築堤の土質材料が外力に対して材料非線形性を持つため、小さな入力地震動に対する応答挙動から強震時のダム堤体の応答挙動を推測することは難しい。このことから、ダムにおける地震観測記録に基づく強震時の実応答挙動の特徴・特異性を明らかにする。また、大規模地震時のダムの安全性評価において強震時の実応答挙動を安全性評価に反映させるための強震時挙動の特徴・特異性を把握する。

成果の内容・特徴

  • ダムの地震時挙動は、一般的に基礎から堤頂へ向かってダム堤体内において応答加速度が増加する。内陸活断層を起震断層とする強震時のAダムの地震観測結果(表1a)は、入力地震動が堤頂へ向かって堤体内を伝播する間に堤体内で振動が増幅せず、既知の一般的な応答挙動とは異なる。強震時のKダムの地震観測結果(表1b)もAダムと同様に入力地震動に対して振動が堤体内で増幅せず、入力地震動より応答加速度が減少する特異な応答挙動である。表中の各欄の上段の数値は、各地震観測点での最大加速度値(cm/s2)、下段の数値は、入力地震動に相当すると考えられる観測点(Aダムでは「基盤」、Kダムでは「下流法尻」)の最大加速度値(入力加速度に相当)に対する他の観測点(Aダムでは「コア部」と「堤頂」、Kダムでは「堤頂」と「左岸地山:堤体内の観測点ではない」)における最大応答加速度値との比(振動の増幅度)である。
  • プレート境界型地震動を受けた震央距離230kmのGダムの基盤相当の観測点の加速度応答スペクトル(図1a)は、震央距離が長いため地震動が減衰し、照査用下限加速度応答スペクトル(以下、下限応答スペクトル)より小さな地震動となっている。また、長周期になるに従いスペクトルが小さくなる傾向は、内陸直下型地震動を考慮している下限応答スペクトルの右下がりの傾きより、プレート型地震時のスペクトルの方が緩やかである。これは、遠地地震の観測波には長周期の地震動がより影響していることを示す。図1bのKuダムの内陸直下型(太線)とプレート境界型(細線)の二つの地震型の加速度応答スペクトルの比較から、プレート境界型の方が内陸直下型より長周期の地震動が観測記録に強く影響している。
  • ダムのレベル2地震動に対する安全性を評価する耐震性能照査において、入力地震動として設定された下限応答スペクトルに匹敵する強さの地震動が観測された二つのダム(図2a、b)においても、貯水機能は維持され、発生した損傷が修復可能であり、近代的な設計・施工に基づき築造されたダムの耐震性能は確保されていると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • フィルダムの管理者や健全性・安全性評価担当者の地震時挙動の評価の参考となる。
  • ダム安全性評価に反映させるためには特徴的な応答挙動を理論的な振動現象として説明できるように、ダムでの地震観測記録を蓄積することが重要である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:災害リスクを考慮した農業水利施設の長期安全性対策技術の開発
  • 中課題整理番号:412b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:増川晋、林田洋一、黒田清一郎、田頭秀和
  • 発表論文等:増川ら(2014)農工研技報、215:185-217