遠隔観測による浮遊物質、全リン、放射性Cs濃度のモニタリング技術

要約

閉鎖性水域の水環境動態の把握や、原子力被災地における水中の放射性物質動態の調査で有用な水質水文遠隔観測技術である。浮遊物質および全リン、懸濁態放射性セシウム濃度の遠隔監視に活用でき、任意時間における遠隔採水も可能である。

  • キーワード:浮遊物質、全リン、遠隔監視、濁度センサー、遠隔採水
  • 担当:基盤的地域資源管理・用排水管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7545
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ICT技術の発展に伴って携帯電話等の無線回線を用いた水質水文観測の遠隔監視は、以前より低コストかつ容易に導入できる。遠隔地における現地観測や将来の担い手確保が懸念される農業水利施設の管理の省力化が課題となる中で、今後、水質水文の遠隔観測技術の高度化や低コスト化の実現に向けた要望がさらに高まるものと考えられる。本研究では、遠隔観測システムの改良を行うとともに、降雨流出時などにおいて短時間の水質変化が大きく定量的な把握が困難な浮遊物質や栄養塩、放射性物質濃度などの現地観測を遠隔で安全に実施することを目的とする。そのため、国営印旛沼二期地区や福島県内のため池など、異なる性格を持つ複数の水域を対象に適用し完成度の向上を図る。

成果の内容・特徴

  • 携帯回線を用いた濁度および水位を中心とした水質水文遠隔観測システムである(図1)。10分毎の観測を基本とする現地観測から、浮遊物質(SS)、全リンおよび放射性セシウム濃度の簡易推定ができる。
  • 実際の水質試料や検証データを得るため、任意時間における遠隔採水や各センサーの出力条件を組み合わせた自動採水が可能である。
  • 本システムは、ネットワークデータロガーを核として、濁度や水位を含めて8chのアナログ出力のセンサーを接続でき、また、無線子機の接続により、1本の携帯回線で、本体の他、数100mまで離れた箇所の遠隔観測が可能である。また、耐候ボックス内に収め、電源はソーラーパネルとバッテリーを用いることで野外の長期運用が可能である。
  • 濁度観測による浮遊物質濃度の推定は、比較的精度よくでき(図2)、また、渓流水および低平地の循環灌漑用水について、濁度から全リン濃度の推定が可能である(図3)。
  • ため池へ流入する渓流水またはため池流出水について、放射性セシウム濃度の推定が可能である(図4)。図4は、検証データを得るため遠隔制御により必要なタイミングで採水を行っている観測事例である。
  • 全リンおよび放射性セシウムの濃度推定には、各地点での濁度と各水質項目の関係を表す式を別途作成する必要がある(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 国、県などの現場技術者、土地改良区を対象として水質保全型国営かんがい排水事業実施地区や原子力災害被災ため池における活用を想定する。
  • 濁度および水位センサーを含む最小セットのシステムコストは60万円程度で、このほか、通信費に年間8万円程度を要する。
  • 汚濁の進んだ低平地排水路の水やFe2+を含む水などでは濁度センサー受光部に汚れが固着することがあり、長期観測時に問題となることがある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:地域農業の変化に対応する用排水のリスク評価および運用管理手法の開発
  • 中課題整理番号:420a0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(除染プロ、営農再開)、その他外部資金(SIP水管理)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:久保田富次郎、濵田康治、人見忠良、申文浩(東北研)、田渕尚一(ウイジン)
  • 発表論文等:
    1)久保田ら(2015)、農業農村工学会誌、83(2):97-100
    2)久保田ら(2016)、農工研技報、218:77-88