水槽からの採熱量は地中からの採熱量の4?5倍が期待できる

要約

シート型熱交換器1枚の水槽での採熱時の熱交換率は589?1302W °C-1であり,熱交換器1枚で2.4?6kWの能力のヒートポンプに対応できると考えられる。シート型熱交換器の水槽での採熱量は地中での採熱量の4?5倍である。

  • キーワード:ヒートポンプ、水熱源、ため池、地中熱、熱交換器
  • 担当:基盤的地域資源管理・自然エネルギー活用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7614
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業用ヒートポンプシステムにおいて、ため池や作土層よりも下の地中は、温度の安定した熱源として利用できる可能性がある。しかし、これら熱源の利用事例は少なく、利用できるか、合理的に判断するためのデータがまだ十分ではない。そこで、小規模ため池を想定した水槽および浅層地中を熱源としたヒートポンプによる小型温室の暖冷房運転を行ない、利用効率や熱交換率を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 熱源は農村工学研究所(つくば市)の低水槽(深さ2?3m)および圃場地中(深さ1.5?1.8m)とする(図1)。採熱には、幅0.91m×長さ5.95mのシート型熱交換器を水槽で1枚、地中で3枚利用する。
  • 水槽を熱源として2kWヒートポンプで通年運転を行なった場合のヒートポンプの利用効率(COP)は暖房で年平均4.6、冷房で3.7である。また、地中を熱源とした場合のCOPは暖房で4.4、冷房で3.5である(図2)。
  • 水槽での熱交換器1枚当たりの年間総採熱量は4645 kWh y?1、排熱量は3419kWh y?1と、地中の熱交換器1枚当りの採熱量914 kWh y?1、排熱量780kWh y?1に対して4?5倍の熱交換量である(図2)。
  • 水の出入りがない、すなわち水槽と水理実験施設間循環の送水量が0L s?1でのシート型熱交換器1枚の採熱時の熱交換率(=採熱量/水槽とヒートポンプ循環の水温差)は589?1302W °C?1である(図3)。ヒートポンプの循環水と水槽の水温差が3°C確保できれば熱交換器1枚で2.4?6.0kWの能力のヒートポンプに対応できると考えられ、小規模ため池での利用が期待できる。なお、送水量が100L s?1以上ある場合の熱交換率は送水が無い場合の1.5倍程度になる。

成果の活用面・留意点

  • 現時点では、ヒートポンプ、熱交換器ともに高価であるが、ため池を熱源としたシステムでの熱交換器のコストはヒートポンプ本体の2?3割ですむと考えられる。温暖化の進行や燃油の高騰が進んだ場合は有効な技術となる。
  • 低コスト化や利用効率の改善,排熱と採熱がため池や地中に及ぼす影響について調べる必要がある。また、より深いため池での熱ポテンシャルを明らかにする必要がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:自然エネルギー及び地域資源の利活用技術と保全管理手法の開発
  • 中課題整理番号:420c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:奥島里美、石井雅久、森山英樹、久保田富次郎、後藤眞宏
  • 発表論文等:奥島ら(2016)農工研技報、218:39-50